連載レポート126:桜井悌司「英語能力指数ランキング2023とラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート126:桜井悌司「英語能力指数ランキング2023とラテンアメリカ」


連載レポート126

英語能力指数ランキング2023とラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

スイスに本拠を置く語学学校運営企業であるEFエデュケーション・ファースト社は2023年11月に「英語能力指数ランキング」(EF English Proficiency Index)を発表した。この調査は、英語を母国語としない国・地域113ヶ国・地域を対象とする調査で、世界中の220万人が参加した。2011年以降毎年公表しており、EF社のオンラインで無料公開している英語力測定テストEF SET)の前年受験データをもとに非英語圏の国・地域の英語能力を追跡調査したものである。

対象国の英語能力を「非常に高い」(Very High Proficiency、800点満点中600点以上)、「高い」(High Proficiency、550点~599点)、「標準的」(Moderate Proficiency、500点~549点)、「低い」(Low Proficiency、450点~499点)、「非常に低い」(Very Low Proficiency、450点以下)という5段階に分けてランク付けをしている。

表1は、2023年の調査の結果である。「非常に高い」国・地域にランクされているのは、オランダ、シンガポール、オーストリア等12ヶ国、「高い」国は18ヶ国、「標準的」な国は、33ヶ国、「低い」国は、28ヶ国、「非常に低い」国は、22か国となっている。日本は残念ながら、「低い」国にランクされ、113ヶ国中87位に甘んじている。前年度80位から7つも順位を落とした。

日本経済新聞の報道によると、「日本は過去最低の87位、若い世代の英語力低下が目立つ」、「日本は2011年の調査結果発表以来、ほぼ毎年順位下落が続く」と報じている。

表1を見ると、大まかな傾向が判明する。

*欧州諸国は総じてランクが高い。

*アジアは、香港やマレーシアを除き、「標準的」か「低い国」に多くの国が入っている

*ラテンアメリカは、アルゼンチンが「高い国」に入っている唯一の国であり、多くの国が「標準的」か「低い」国にランクされている。

*国連の公用語であるフランス語、アラビア語、ロシア語を話す国のランクは総じて低い。フランスの旧植民地で語フランス語を話すアフリカ諸国を話すアフリカやアジア、アラビア語を話す多くの国々、旧ソ連に属していた国々等である。世界で使用されている有力言語の国々は、強い言語ゆえに英語に頼らなくてもよいということからきているものと考えられる。

「英語能力指数ランキング2023」レポートでは、これらテストの効用と限界、他の調査との比較につき、いくつかのコメントを公表しているので紹介する。

*EF標準英語テスト(EF SET)は、読解力とリスニング力を測定するオンライン英語テストである。標準化され、客観的に採点されるこのテストは、受験者の言語能力を欧州共通参照枠(CEFR)で定められた6つのレベルのいずれかに分類するように設計されている。

*テスト受験者のサンプルは、語学学習に関心のある回答者や若年層の回答者に偏っているが、サンプルは男女のバランスがほぼ取れており、幅広い年齢層の成人語学学習者を表している。- 女性回答者はサンプル全体の42%、男性回答者は35%、性別を記入しなかった回答者は23%であった。- 年齢情報を提供した回答者の年齢の中央値は26歳である。

*この調査に匹敵する規模と範囲を持つデータセットは他になく、その限界にもかかわらず、多くの政策立案者、学者、アナリストとともに、私たちも英語教育に関する世界的な対話において貴重な参考資料であると考えている。

*PISA(OECD)が行っている学習到達度調査)には、2025年に初めて外国語としての英語評価が導入される予定であり、15歳児のスキルレベルをベンチマークするEF EPIにとって興味深い比較データとなる。英語能力に関するもうひとつのデータ源は、各国の教育制度にある。多くの学校では、高校生や大学入学希望者全員を対象に、全国統一の英語能力テストを実施している。その結果は公表される場合とされない場合があるが、教育者や政府関係者は、教育改革の有効性を評価し、改善すべき分野を特定するためにそのデータを利用している。

*残念なことに、これらの国別学力検査は相互に比較可能なものではなく、また成人に対して実施されるものでもないため、世界のある地域の高校生の英語力についてはよくわかるものの、国際比較に用いることはできないし、成人の英語力レベルについて多くを知ることもできない。 EFエデュケーション・ファースト(www.ef.com)は、語学、学問、文化交流、教育旅行に重点を置く国際教育企業である。1965年に設立されたEFの使命は、”教育を通じて世界を開く “ことである。何百万人もの学生、企業、団体がEFのプログラムに参加している。

表1 調査対象国113ヶ国の格付け

格付け 国      名 国数
非常に高い

Very High Proficiency

オランダ(647)、シンガポール(631)、オーストリア(616)、デンマーク(615)、ノルウエー(614)、スウェーデン(609)、ベルギー(608)、ポルトガル(607)、南ア(605)、ドイツ(604)、クロアチア(603)、ギリシャ(602) 12
高い

High Proficiency

ポーランド(598)、フィンランド(597)、ルーマニア(596)、ブルガリア(589)、ハンガリー(588)、スロバキア(587)、ケニア(584)、フィリピン(578)、リトアニア(576)、ルクセンブルグ(575)、エストニア(570)、セルビア(569)、マレーシア(568)、チェコ(565)、ナイジェリア(562)、アルゼンチン(560)、香港(558)、スイス(553) 18
標準的

Moderate Proficiency

ホンジュラス(544)、ジョージア(541)、ベラルーシ(539)、ガーナ(537)、スペイン(535)、イタリア(535)、モルドバ(535)、コスタリカ(534)、アルバニア(533)、ウルグアイ(533)、ボリビア(532)、ロシア(532)、キューバ(531)、フランス(531)、ウクライナ(530)、パラグアイ(530)、ウガンダ(529)、アルメニア(528)、韓国(525)、エルサルバドル(524)、ペルー(521)、チリ(518)、グアテマラ(515)、イスラエル(514)、ドミニカ共和国(512)、ベネズエラ(508)、ネパール(507)、イラン(505)、ベトナム(505)、バングラデシュ(504)、インド(504)、ニカラグア(503)、チュニジア(502) 33
低い

Low Proficiency

パキスタン(497)、レバノン(496)、トルコ(493)、スリランカ(491)、タンザニア(491)、エチオピア(490)、ブラジル(487)、アラブ首長国連邦(486)、パナマ(486)、モンゴル(482)、カタール(482)、コロンビア(480)、モロッコ(478)、アルジェリア(475)、マダガスカル(474)、インドネシア(473)、エクアドル(467)、シリア(467)、中国(464)、アゼルバイジャン(463)、エジプト(463)、マラウイ(461)、クウエート(460)、日本(457)、アフガニスタン(456)、メキシコ(451)、ミャンマー(450)、キルギス(450) 28

 

大変低い

Very Low Proficiency

パレスチナ(445)、ウズベキスタン(442)、カメルーン(438)、セネガル(438)、ヨルダン(431)、スーダン(430)、カンボジア(421)、ハイチ(421)、オマーン(418)、アンゴラ(416)、タイ(416)、ベナン(416)、カザフスタン(415)、ソマリア(411)、イラク(410)、コートジボワール(409)、サウジアラビア(408)、ルアンダ(405)、リビア(392)、イエーメン(392)、タジキスタン(388)、コンゴ共和国(385) 22
合 計   113

注:特典は800点満点

「ラテンアメリカの英語力指数ランキングの現状」

次に、ラテンアメリカ諸国での英語能力ランキングと得点をみてみよう。カリブ海諸国の多くは英語を母国語とするので対象ではないこともあり、今回の調査では、下記の表2の20ヶ国がが対象である。長年、筆者もラテンアメリカでは英語がなかなか通じないという先入観を持っていたが、この調査結果をみると、イメージが少し変わってくる。日本は113ヶ国中87位であるが、対象国20か国のうちこの順位を上回っているラテンアメリカ諸国は、18ヶ国に及び日本の順位を下回っているのは、メキシコとハイチのみである。アルゼンチンが唯一「高い熟達度」の国にランクされているのも驚きであるが、中米の小国であるホンジュラスやコスタリカ等も健闘している。ウルグアイ、パラグアイの人口少国も、市場が小さいゆえに英語力が重視される。チリのランクが予想外に高くないのも気にかかるところである。

2022年と比較してランクを急激に上昇させている国は、ホンジュラス(18位上昇)、ベネズエラ(11位上昇)、ウルグアイ(10位上昇)、グアテマラ(5位上昇)で、反対にランクを急激に下落させている国は、ブラジル(12位下落)、チリ(7位下落)、キューバ(5位下落)となっている。

表2 ラテンアメリカにおける英語能力指数ランキング2023

ランク 国名 得点 英語力熟達度(2023)
28位(30) アルゼンチン 560(562) High Proficiency 高い熟達度
31位(48) ホンジュラス 544(522) Moderate Proficiency 標準的能力
38位(37) コスタリカ 534(536) 同上
39位(49) ウルグアイ 533(521) 同上
41位(44) ボリビア 532(525) 同上
43位(38) キューバ 531(535) 同上
45位(43) パラグアイ 530(526) 同上
50位(50) エルサルバドル 524(519) 同上
51位(51) ペルー 521(517) 同上
52位(45) チリ 518(524) 同上
53位(58) グアテマラ 515(505) 同上
55位(53) ドミニカ共和国 512(514) 同上
56位(67) ベネズエラ 508(492) 同上
62位(61) ニカラグア 503(499) 同上
70位(58) ブラジル 487(505) Low Proficiency
71位(75) パナマ 486(482) 同上
75位(77) コロンビア 480(477) 同上
80位(82) エクアドル 467(466) 同上
89位(88) メキシコ 451(447) 同上
98位(98) ハイチ 421(421) Very Low Proficiency
       
35位(33) スペイン 535(545) High Proficiency
49位(36) 韓国 524(537) High Proficiency
82位(62) 中国 464(498) Low Proficiency
87位(80) 日本 457(475) Low Proficiency

注:(  )内は2022年の数字