『古代アメリカ文明 -マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』 青山 和夫編、井上 幸孝・坂井 正人・大平 秀一 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『古代アメリカ文明 -マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』 青山 和夫編、井上 幸孝・坂井 正人・大平 秀一 


これまでマヤ、アステカ等とプレインカ、インカ等の古代アメリカ文明それぞれの解説書は多く刊行されているが、本書はそれらを一緒に学問的に謎を解明しつつ最新の研究成果と文明の魅力を一般の人たちにも分かりやすく伝えることを意図したものである。
第一章マヤ文明(青山 茨城大学教授)はネットワーク型文明であったマヤを結びつけたマヤ文字と図像、神殿ピラミッドとマヤ人の世界観、公共祭祀を行う中で確立された定住と都市建設、権力者の出現などを、第二章アステカ王国(井上 専修大学教授)は太陽神への生け贄だけが強調されてきた征服後史料の人数には誇張があったこと、都市テノチティトランの威容、絵文書・壁画等の資料の解明、スペイン植民地になってからの文書の記述ぶりと先住民の言説、近代メキシコ国家の中での位置づけに至るまでを言及している。第三章ナスカ(坂井 山形大学教授)は、文字を持たなかったアンデス文明とアステカの絵文字から文字はどのような影響を人類に与えるかを問い、ナスカ社会の定住から変容、分布図から見る地上絵の線と点で構築されたネットワークタイプなど、地上絵がなぜ制作されたかを最新の研究手法とともに紹介、解明している。第四章インカ(大平 東海大学教授)は、スペイン征服者の記録や遺跡、遺物から一方的に創られてきた無文字社会であったインカ像を正し、アンデスの精神社会、インカの祭祀空間を紹介している。古代アメリカ文明を概観した序章(青山)と古代アメリカ文明の実像に迫る終章(同)では、家畜のミルクを全く利用しなかった異様な文明ながら農業の多様性を持ち、石器だけで造った文明という共通性、文字文明のメソアメリカと無文字文明のアンデス、まず神殿建設から始まり神殿更新を繰り返したアンデスに対して、土器作りの後に神殿が建設され始め都市化したが王は絶対的権力者でなくネットワーク型文明であったメソアメリカなど、両文明の特色を指摘しており、読者にこれまでの人類史観を再考させる内容の濃い解説書となっている。

 〔桜井 敏浩〕

(講談社現代新書 2023年12月 320頁 1,200円+税 ISBN978-4-06-534280-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より