愛知県の公園のベンチで支援団体スタッフの名刺を握りしめたまま亡くなっていた日系ブラジル人のホームレスの男性がいたという事件をきっかけに、NHK取材班が1年にわたって名古屋市、豊田市、豊橋市、磐田市、大垣市、飯田市に住むブラジル人150人以上に話を聞き、その結果を脚本家の宮藤官九郎が物語化し、イッセー尾形が一人芝居で演じた番組は2021年2月に放送された。
本書の前半はこの一人芝居の脚本と番組の様子を、後半は関係者へのインタビューで構成されている。ブラジル人、彼らが集住する団地の自治会長、働く現場の監督や同僚などの日本人、日系ブラジル人学者のアンジェロ・イシさんなど、数多く取材過程で話を聞いている。団地でのゴミ出し、シュラスコ・パーティをめぐる騒音、ブラジル物品販売者の駐車場占拠など続出する問題を根気よく説得し解決した例、労働現場での使う側・使われる側それぞれの言い分、様々な生活の場面で表れる彼我の文化、価値観、思考の違い、故郷との会話を繋ぐ公衆電話、リーマンショックと新型コロナ感染症禍で帰国かホームレスかの選択を迫られた苦難の時期、困難を乗り越えて活路を見いだす人々の事例を紹介しており、日本に住む日系ブラジル人の実態の一端を知る上で大いに参考になる。
〔桜井 敏浩〕
(春陽堂書店 2023年8月 192頁 1,800円+税 ISBN978-4-394-19026-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕