連載エッセイ330:渡邉尚人「地球環境:ホリステイックに考えよう」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ330:渡邉尚人「地球環境:ホリステイックに考えよう」


連載エッセイ330

地球環境:ホリステイックに考えよう

執筆者:渡邉尚人(日本UNEP協会顧問 元在バルセロナ総領事)


戸惑うわれらをのせてはめぐる宇宙は、
たとえて見れば幻の走馬燈だ。
日の燈火を中にしてめぐるは空の輪台、
われらはその上を走り過ぎる影絵だ。

これは、11世紀のぺルシャ詩人オマル・ハイヤームの四行詩(ルバイヤート)です。哲学的無常観で宇宙の摂理を謳いました。

1.人類の立ち位置

(1)地球は、今や80億人となった戸惑う人類を載せて秒速466メートルで自転しています。リオ・オリンピック100メートル走金メダリストのウサイン・ボルトでさえ秒速10.4メートルですから大変な速さです。そしてこの地球は太陽の周りを秒速29.8キロで公転しています。更に太陽系は銀河系の中心の周りを秒速220キロで回っています。その銀河系は秒速600キロで移動していて、その上宇宙は秒速1000キロで膨張しているのです。ですから私たち人類は、静かであるもすさまじい複雑な螺旋運動の中で奇跡的に均衡を保ちつつ大地に立って生きているのです。

2.宇宙的時間軸の中の地球

(1) 137億年前に宇宙が大爆発(ビッグバン)で生まれ、地球は46億年前にできた
と考えられています。そして40億年前に原始生命が誕生し、32億年前に光合成生物が出現、4億年前にアンモナイトが現れ、節足動物が上陸、2億3千年前に恐竜が現われ、人類は、ようやく400万年前に猿人アウストラロピテクスが生まれ、20万年前にネアンデルタール人、4万年前にクロマニオンが生まれます。

(2) 更新世の最後の氷河期が終わった1万2千年前の完新世から人類は拡散してゆきま
す。西暦1年の推定人口は1億人、1804年には10億人、1950年25億人、1987年50億人そして現在80億人まで増加してきたのです。

(3) 更に人間の人口と経済社会活動、技術、地球環境への影響は、1950年を境に急加速(Great Acceleration)するのです。人口は3.2倍、世界経済は13倍に拡大、そしてグローバリゼーション、都市の巨大化、都市人口増、テクノロジー進歩、対外投資増、エネルギー、水、化学肥料消費増、巨大ダム、遠隔通信、運輸、海外旅行等も急加速しています。一方で大気中のメタンやC02濃度、オゾン濃度、海洋酸性化、熱帯林減少等が環境にも大きな影響を及ぼしています。

(4) 地質学的には地球の絶滅危機は5回(オルドビス紀末、デボン紀後期、ペルム紀末、
三畳紀末、白亜紀末)もあったのですが、今や地球温暖化、熱帯雨林や森林地域喪失、生物多様性の喪失等地球環境の変化が第六回目の生物大量絶滅の危機とまで言われています。そして1950年以降は、化石燃料燃焼やコンクリ建造物(テクノ化石)の堆積、核実験による堆積物等による新しい地質学区分として人新世(アントロポセン)と呼ばれているのです。

(5)人類は、現在力を合わせて気候変動、生物多様性喪失、環境汚染という三つの危機に対応しています。2030年までに生物多様性の喪失を食い止め逆転させる緊急行動をとり、また2050年のカーボン・ニュートラルを目指しています。人間の英知と経験、最新の科学技術を結集し、更に地球の自然治癒力・回復力を活用すればこの危機は乗り切れると思いますが、地球の気候変動自体は2050年には終わることなく続いてゆくのです。

(6)そして人類は子々孫々までDNAでしっかりとつながり、文明を継承し、核戦争や巨大隕石の接近、地球の自転・公転軌道逸脱等の地球絶滅の危機を乗り越えながら継続的に繁栄してゆくでしょう。しかし最後は、地球も宇宙の摂理に従わねばならないのです。地球はまだ40億年の寿命があると言われていますが、30億年後には太陽が赤色巨星化して、地球は金星の様に焦がされ干上がってしまうのです。星は生まれ、成長し、やがて寿命を迎え、死んでゆき、その後ガスが集まり再び星が生まれるという宇宙の摂理です。その時には人類は地球を離れ、核融合の世界である宇宙に船出することが必要です。火星に移住したり、地球自体にロケットや大きな帆をつけて公転軌道を変更し地球号として宇宙への旅をする必要がでてくるでしょう。
 

3.地球温暖化について

(1)地球の置かれた立場、時間軸を頭に入れると地球環境問題をより巨視的に見ることができます。例えば、地球温暖化ですが、この原因が人間の化石燃料使用や森林減少等人為的なCO2増加のみによるということはないのです。大気の気象状況は刻々と変わり、太陽活動の変化、水蒸気の雲、風向き、降雨、大波、火山噴火、エルニーニョや寒帯ジェットストリームの北極振動、更には地下のマグマの胎動等で地球温暖化は人間活動とは無関係な自然の変動によるところが大きいのです。

(2)地球は、実験室の試験管の中の様な一定の条件下にはなく、常に刻々と状況が変化しています。科学技術の力のみでこの動きを予測することには不確実性が伴います。いくら精緻なシュミレーションでも初期の設定値のわずかな違いや測定値の誤差等は当然ありうるのです。

(3)気候変動と地球温暖化問題を人為的なCO2増加が全ての科学的な原因として議論を終了させてしまうことや貧困格差や貧困国と富裕国との対立、世代間の責任のなすりつけ等倫理問題にまで結び付けて半ばヒステリックに主張することには違和感を感じます。全ての国々、全ての世代が老いも若きもそれぞれの利点、長所を持ち寄りながら協力してゆくことが肝要です。

(4)1997年の気候変動枠組み条約締約国会議パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力の追及を求めています、そして2030年までに或いは2050年までに2度未満に抑えられればもう大丈夫で人類は安泰、もし抑えなければあたかも地球が崩壊し人類が滅亡するかのようにとらえられています。しかし、これは違うのです。気候変動は2度未満に抑えられたとしても変動し続けるのです。また産業革命から百数十年で1.2度の気温上昇は体感温度ではわずかなもので、これが上がっただけで人類がすぐに絶滅するということはないのです。人類ははるかに大きな温度変化に対応してきたのですから。

4.CO2について

(1) また世界のCO2排出量は、314億トンで、特に中国が32.1%、米国13.6%、インド6.6%、ロシア4.9%、日本3.2%であり、いくら日本一国がCO2削減に100%成功しても、3割を占める中国が削減に成功しなければ世界全体として2050年カーボン・ニュートラルは達成できないのです。

(2)そして地球の大気は窒素78.1%、酸素20.9%、アルゴン0.9%、二酸化炭素0.03%、水蒸気その他が1%の組成ですが、世界の人為的CO2排出量314億トンは、大気中のわずか0.014%なのです。

(3)またCO2は、地球温暖化の元凶として悪者扱いされていますが、実は悪者ではなく地球には必要不可欠なものです。地球が誕生した頃から存在し、生命体を構成する有機化合物(ブドウ糖等)をつくる原料です。トマト等の作物の生育も促進するのです。そして、地球の緑をつくっている光合成植物は、CO2がなければ生きてゆけず、光合成植物が無ければ酸素もなく、食物連鎖でエネルギーを得る人間も生きてゆけなくなるのです。

(4)人間自身も、毎日酸素を吸いCO2を吐き出しています。その量は一日0.6Kgで一年間に220Kgと言われています。CO2を悪者扱いするのであれば自らの呼吸すら止めねばならないという極論に陥ってしまいます。

(5)CO2を悪者の廃棄物としてではなく、資源として有効活用することが必要です。消火剤として消火活動に利用できますし、人口光合成でつくるプラスティック原料や水素との合成燃料が出来ています。将来ユニークな発想と自然からヒントを得た科学技術により、例えば光合成原理を応用して煙突にCO2を酸素に変換する蓋をつけるとか、吐く息のCO2を酸素に変換するマスクとか、CO2を酸素に変換して継続的に大量に発生させる機械等も作ってほしいものです。

5.環境破壊と戦争

(1)現在世界ではウクライナ戦争やハマスとイスラエルの戦争等多くの戦争が行われています。これらは、環境破壊の最たるもので、ロシアのウクライナ侵攻による半年間のCO2排出量がオランダの排出量に相当する1億トンという試算もあります。

(2)戦争や非常事態時の環境破壊は、通常の環境破壊の埒外に置かれがちですが、これは人類の悲劇であると共に、地球自体に大きなダメージを与えるものです。戦争を必要悪的な例外的環境破壊とするのではなく、環境破壊そのものであるとして通常の環境破壊の範疇に入れ、規制してゆくべきと考えます。

(3)戦争を終結させ、二度と戦争を起こさず、恒久的平和をもたらすために国境紛争の係争地を思い切って共通の自然保護区や緑の平和回廊にする等、環境保護面からの国際社会の強力なイニシアチブが必要と思われます。

6.最後に

(1)若い人は、地球環境に関する一国の政府の環境政策や短絡的主張やプロパガンダ、マーケッテイング、プレスの絶望的な過熱報道等を前に、右往左往するのではなく、より冷静に自分で考え、問いかけ、科学技術のみでない経済、政治、社会、文化、芸術、文学等を含むホリスティックで柔軟な発想で気候変動をとらえ、自然との折り合いをつけつつ自然環境を保護改善し、環境汚染を防ぐことに貢献してほしいと思います。

(2)そしてこの地球の40億年と言われる寿命を環境破壊の最たるものである核戦争や環境汚染で破壊させることなく寿命を全うさせ、末代までの人類の安全で幸せな未来までをも想像しながら環境問題に積極的に取り組んでいってほしいと願っています。

(了)