執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
2024年3月13日、国際連合の一組織である国連開発計画(UNDP)が恒例の人間開発報告書(Human Development Report 2023/24)を発表した。UNDPが1990年に開始したもので、今回の調査の対象国は世界の193ヶ国で2022年を基準としている。
報告書の元となる人間開発指数(HDI)は、世界各国の人間開発の程度を測るための物差しとして発表された。具体的には、各国の人間開発の達成度を ①長寿で健康的な生活、②知識、③人間らしい生活 という3点から測ったものである。それぞれの項目で、出生時平均寿命、平均的な寿命指数、成人識字率、就学率、教育指数、1人当たりのGDP、GDP指数が使われる。数値は、0と1の間で表示され、1に近づくほど個人の選択肢が広い、すなわち、人間開発が進んでいるということになる。HDIは、4つのグループにランクされ、0.8~1.0は、Very high human development、0.7~0.79は、high human development,0.55~0.69は、medium human development,0.55以下は、low human developmentとしている。
「人間開発報告書(Human Development Report 2023/24)」の概要
今回の調査では、下記レポートの表紙にあるように「行き詰まりの打開〜二極化する世界における協調とは〜」との副題がつけられている。UNDPの日本語ニュースでも「豊かな国では人間開発が記録的水準に達する一方、 最貧国の半数の状況は後退」とアピールしている。パンデミックの影響で、過去2カ年、人間開発指標(HDI)が2年連続で後退したが、今回、HDIは大幅に改善した。しかし、世界的に大きな格差が生じており、富裕国でかつてないほどHDIが改善された一方で、世界の貧困国の半数ほどではCOVID危機以前の開発水準に留まった。
人間開発調査の結果は、表1の通りであるが、ベスト20をみると欧州諸国が13ヶ国、アジア・中東4ヶ国・地域、北米2ヶ国、オセアニア2ヶ国、となっている。日本は,2021年の22位から24位にランクを落とした。右欄は、ラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングである。
表1 世界とラテンアメリカの人間開発指数2022
順位 | 国名 | 得点 | LAC順位 | 国名 | 得点 |
1位 | スイス | 0.967 | 1(44) | チリ | 0.860 |
2位 | ノルウエー | 0.966 | 2(48) | アルゼンチン | 0.849 |
3位 | アイスランド | 0.959 | 3(52) | ウルグアイ | 0.830 |
4位 | 香港等 | 0.956 | 4(54) | アンテイグアB | 0.826 |
5位 | デンマーク | 0.952 | 5(57) | バハマ | 0.820 |
5位 | スウエーデン | 0.952 | 5(57) | パナマ | 0.820 |
7位 | ドイツ | 0.950 | 7(60) | トリニダードT | 0.814 |
7位 | アイルランド | 0.950 | 8(62) | バルバドス | 0.809 |
9位 | シンガポール | 0.949 | 9(64) | コスタリカ | 0.806 |
10位 | オーストラリア | 0.946 | 10(73) | グレナダ | 0.793 |
10位 | オランダ | 0.946 | 11(77) | メキシコ | 0.781 |
12位 | ベルギー | 0.942 | 12(81) | セントヴィンセントG | 0.772 |
12位 | フィンランド | 0.942 | 13(82) | ドミニカ共和国 | 0.766 |
12位 | リヒテンシュタイン | 0.942 | 14(83) | エクアドル | 0.765 |
15位 | 英国 | 0.940 | 15(85) | キューバ | 0.764 |
16位 | ニュージーランド | 0.939 | 16(87) | ペルー | 0.762 |
17位 | UAE | 0.937 | 17(89) | ブラジル | 0.760 |
18位 | カナダ | 0.935 | 18(91) | コロンビア | 0.758 |
19位 | 韓国 | 0.929 | 19(95) | ガイアナ | 0.742 |
20位 | ルクセンブルグ | 0.927 | 20(97) | ドミニカ国 | 0.740 |
20位 | 米国 | 0.927 | 21(102) | パラグアイ | 0.731 |
22位 | オーストリア | 0.926 | 22(108) | セント・ルシア | 0.725 |
22位 | スロベニア | 0.926 | 23(115) | ジャマイカ | 0.706 |
24位 | 日本 | 0.920 | 24(118) | ベリーズ | 0.700 |
25位 | イスラエル | 0.915 | 25(119) | ベネズエラ | 0.699 |
25位 | マルタ | 0.915 | 26(120) | ボリビア | 0.698 |
27位 | スペイン | 0.911 | 27(124) | スリナム | 0.690 |
28位 | フランス | 0.910 | 28(127) | エルサルバドル | 0.674 |
30位 | イタリア | 0.906 | 29(130) | ニカラグア | 0.669 |
42位 | ポルトガル | 0.874 | 30(136) | グアテマラ | 0.629 |
75位 | 中国 | 0.788 | 31(138) | ホンジュラス | 0.624 |
32(158) | ハイチ | 0.552 |
注: LAC順位の左はLAC諸国内のランキング、( )内は世界の順位である。
「最新調査に見るラテンアメリカ・カリブ諸国の概要」
表1の右側は、ラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングと得点を表している。これによると、ベスト10は、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、アンテイグアB、バハマ、パナマ、トリニダードT、バルバドス、コスタリカ、グレナダとなっており、ラテンアメリカ諸国が5カ国、カリブ海諸国が5ヶ国となっている。
表2は、グループ別の分類を表す。これによると、0.8ポイント以上のVery high human developmentにランクされる国は、チリからコスタリカまでの9か国、次に0.70から0.79のポイントのHigh human developmentには、グレナダからベリーズまでの15ヶ国、Medium human developmentには7ヶ国、Low human developmentにはハイチ1ヵ国となっている。
表3は、ラテンアメリカ・カリブ諸国の人間開発指数の推移で、2010年、2016年、2019年~2022年のランキングの推移を表している。
表4は、2021年と比較し、2022年には、どの国がランクを上昇させたか、下落させたかを示している。表5は、コロナ前の2019年と2022年を比較したものである。ランク上昇国とランク下落国が一目瞭然に理解できる。過去1年の比較では、ランク上昇国数は、15ヶ国、 ランク下落国数は、18ヶ国である。8ランク以上上昇している国が、7ヶ国もあり、その内5ヶ国がカリブ海諸国である。反対に下落国は、スリナムを例外として比較的緩やかなランク下落である。
表5でコロナ前の2019年と比較したものを見ると、ランク上昇国数は、14ヶ国、ランク下落国数は、18ヶ国、アルゼンチンは変化なしである。ランクが10以上上昇した国は、6ヶ国に及びほとんどがカリブ海諸国である。一方、10ランク以上の下落国は、8ヶ国にもおよびコロンビアやブラジルも含まれている。
表2 2022年人間開発調査に見るラテンアメリカ諸国のグループ別分類
分類 | 得点 | 国名 |
Very high human development | 0.8 | チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、アンテイグアB、バハマ、パナマ、トリニダードT、バルバドス、コスタリカ以上9ヶ国 |
High human development | 0.70~0.79 | グレナダ、メキシコ、セント・ヴィンセントG、ドミニカ共和国、エクアドル、キューバ、ペルー、ブラジル、コロンビア、ガイアナ、ドミニカ国、パラグアイ。セント・ルシア、ジャマイカ、ベリーズ以上15ヶ国 |
Medium human development | 0.55~0.69 | ベネズエラ、ボリビア、スリナム、エルサルバドル、ニカラグア、グアテマラ、ホンジュラス以上7ヶ国 |
Low human development | 0.55以下 | ハイチ |
表3 ラテンアメリカ・カリブ諸国の人間開発指数の推移
国名 | 2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 2016 | 2010 |
チリ | 44 | 42 | 39 | 42 | 42 | 45 |
アルゼンチン | 48 | 47 | 42 | 48 | 45 | 46 |
Sキッツ& N | 51 | 75 | 67 | 73 | 74 | – |
ウルグアイ | 52 | 58 | 50 | 57 | 54 | 52 |
アンテイグアB | 54 | 71 | 65 | 74 | 62 | – |
バハマス | 57 | 55 | 49 | 60 | 58 | 43 |
パナマ | 57 | 61 | 61 | 67 | 60 | 54 |
トリニダードT | 60 | 57 | 64 | 63 | 65 | 59 |
バルバドス | 62 | 70 | 53 | 56 | 54 | 42 |
コスタリカ | 64 | 58 | 58 | 68 | 66 | 62 |
グレナダ | 73 | 68 | 70 | 78 | 79 | – |
メキシコ | 77 | 86 | 69 | 76 | 77 | 56 |
セイント・ヴィンセントG | 81 | 89 | 93 | 94 | 99 | – |
ドミニカ共和国 | 82 | 80 | 88 | 89 | 99 | 88 |
エクアドル | 83 | 95 | 80 | 85 | 89 | 77 |
キューバ | 85 | 83 | 68 | 72 | 68 | – |
ペルー | 87 | 84 | 83 | 82 | 87 | 63 |
ブラジル | 89 | 87 | 74 | 79 | 79 | 73 |
コロンビア | 91 | 89 | 85 | 79 | 95 | 79 |
ガイアナ | 95 | 108 | 119 | 123 | 127 | 104 |
ドミニカ国 | 97 | 102 | 97 | 99 | 96 | – |
パラグアイ | 102 | 105 | 104 | 98 | 110 | 96 |
セント・ルシア | 108 | 106 | 84 | 89 | 92 | – |
ジャマイカ | 115 | 110 | 91 | 96 | 94 | 80 |
ベリーズ | 118 | 123 | 100 | 103 | 103 | 75 |
ベネズエラ | 119 | 120 | 73 | 96 | 71 | 75 |
ボリビア | 120 | 118 | 112 | 114 | 118 | 96 |
スリナム | 124 | 99 | 94 | 98 | 97 | 94 |
エルサルバドル | 127 | 125 | 115 | 124 | 117 | 90 |
ニカラグア | 130 | 126 | 118 | 126 | 124 | 115 |
グアテマラ | 136 | 135 | 122 | 127 | 125 | 126 |
ホンジュラス | 138 | 137 | 126 | 132 | 130 | 106 |
ハイチ | 158 | 163 | 160 | 169 | 163 | 145 |
世界の調査対象国数 | 193 | 191 | 189 | 189 |
表4 過去1年間(2022~2023)でランクの上昇した国、下落した国
ランクが上昇した国 15ヶ国 | ランクが下落した国 18ヶ国 |
Sキッツ& N(+24)、アンテイグアB(+17)、ガイアナ(+13)、エクアドル(+12)、メキシコ(+9)、バルバドス(+8)、セイント・ヴィンセントG(+8)、ウルグアイ(+6)、ドミニカ国(+5)、ハイチ(+5)、ベリーズ(+5)、パナマ(+4)、パラグアイ(+3)、アルゼンチン(+1)、ベネズエラ(+1) | スリナム(-25)、コスタリカ(-6)、グレナダ(-5)、ジャマイカ(-5)、ニカラグア(-4)、トリニダードT(-3)、ペルー(-2)、チリ(-2)、バハマ(-2)、ドミニカ共和国(-2)、キューバ(-2)、ブラジル(-2)、コロンビア(-2)、セントルシア(-2)、ボリビア(-2)、エルサルバドル(-2)、グアテマラ(-1)、ホンジュラス(-1) |
表5 コロナ以前との比較(2019年と2022年の比較)
ランクが上昇した国 14ヶ国 | ランクが下落した国 18ヶ国 |
ガイアナ(+28)、Sキッツ& N(+22)、アンテイグアB(+20)、セイント・ヴィンセントG(+13)、ハイチ(+11)、パナマ(+10)、ドミニカ共和国(+7)、ウルグアイ(+5)、グレナダ(+5)、コスタリカ(+4)、バハマ(+3)、トリニダードT(+3)、エクアドル(+2)、ドミニカ国(+2) | スリナム(-26)、ベネズエラ(-23)、セント・ルシア(-19)、ジャマイカ(-19)、ベリーズ(-15)、キューバ(-13)、コロンビア(-12)、ブラジル(-10)、グアテマラ(-9)、バルバドス(-6)、ボリビア(-6)、ホンジュラス(-6)、ペルー(-5)、パラグアイ(-4)、ニカラグア(-4)、エルサルバドル(-3)、チリ(-2)、メキシコ(-1) |
注:アルゼンチンは変わらず