連載エッセイ334:硯田一弘「南米現地最新レポート」その56 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ334:硯田一弘「南米現地最新レポート」その56


連載エッセイ334

「南米現地最新レポート」その56

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「2024年3月3日発」

パラグアイは3月1日はel Día Nacional de los Héroes(国の英雄を祭る日)として祝日でした。この日は1870年3月1日に、パラグアイがブラジル・アルゼンチン・ウルグアイを相手に戦った三国戦争で、フランシスコ・ソラノ・ロペス元帥(第二代大統領)が戦死した日で、1864年から足掛け7年に及んだ戦争が彼の戦死によって終結したことを記念して、国の祝日となったものです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%8E%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%9A%E3%82%B9#%E8%84%9A%E8%A8%BB

イギリスの支援を受けて日本の江戸時代末期にあたる1861年に南米で初めて鉄道を走らせるなど、南米の先進国であったパラグアイですが、この戦争によって52万人の人口が半分以下の21万人に減少、成人男子の9割が戦死するという悲惨な結果をもたらした訳で、国土も切り取られて現在の姿になっています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%82%A4%E6%88%A6%E4%BA%89

今週はたまたま、NHKでは南米の鉄道を紹介する番組を放送していて、パラグアイの鉄路復活に挑む人たちのことも紹介されました。

i_tetsudo/ts/JRG3K26XKL/episode/te/3RZNW1N9GG/

と言う訳で、英雄にちなんだ行事が目白押しですが、もう一つ、首都アスンシオンと国の北西部チャコ地方とを結ぶ新しい橋Puente Héroes del Chaco(チャコ英雄の橋)が遂に完成、月曜日に大統領が先導して開通式典が営まれることが発表されました。

https://www.lanacion.com.py/politica/2024/03/02/presidente-encabezara-corrida-de-5-k-sobre-puente-heroes-del-chaco/

この橋の建設の様子は、今までも何度となくご紹介してきましたが、遂に完成してチャコ地方だけでなく、隣国(というか川向うの南側)アルゼンチンとの時間的距離感が大幅に短縮されることになり、交通インフラの整備を進めるパラグアイの更なる進化が始まると言っても過言ではありません。

総工費1億25百万ドル(約188億円)、総延長7㎞に及ぶこの橋の完成は、並行して進められているCorredor Vial Bioceánico(南米横断道路)の建設とともにパラグアイのみならず、ブラジル・ボリビア・アルゼンチン・チリといった南米南部各国の交通事情を一変させる大事業として『陸のパナマ運河』と称される大事業であり、一連の工事が完成すると、150年以上前に失った威信を取り戻す機会に恵まれるものと期待されています。

https://www.facebook.com/watch/?v=862696318778809

「2024年3月10日発」

3月8日は「国際女性の日」(Día Internacional de la Mujer)ということで、女性活躍に関する報道が多くなされましたが、駐パ日本大使もLa Nacion紙の一面でパラグアイにおける代表的な女性リーダーとして紹介されました。

記事の中で最初にインタビュー記事が掲載され、「差別行為を受け入れず、自分の人生を歩むために日々闘う女性たちに敬意を表する重要な日である」という強いメッセージを読者に届けていました。

一方、もう一つの主要新聞abc color紙では、パラグアイの学校教育レベルがラ米域内で最低評価となったと報じて問題提起しています。

https://www.abc.com.py/internacionales/2024/03/07/crisis-de-aprendizaje-paraguay-entre-los-peores-puntuados-de-latinoamerica/

https://publications.iadb.org/es/publications/spanish/viewer/El-aprendizaje-no-puede-esperar-Lecciones-para-America-Latina-y-el-Caribe-a-partir-de-PISA-2022.pdf

この報告書によると、2022年にOECDが調査を行った81カ国中、数学の順位は80位(日本は4位)、読解力は68位(日本は3位)、科学は75位(日本は2位)となっています。

この記事は学習成果の国際比較の結果が芳しくないという事を報じている一方、見出し下の部分では、国の給食予算250万ドルが公正に使用されていないので、子供達に食事が行き渡っていないという本文には無い発信をしています。

とは言え、昨年8月に政権交代して以降、現ペニャ政権にとっても給食問題は最重要課題の一つですから、与党に反対の立場を貫くabc紙から教育レベルの向上や教育環境の改善に関する提言があげられるのは、もともと野党から政治活動を始めた大統領には好都合のことなのかも知れません。

ところで2月29日は四年に一度の閏日でしたが、Dia Bisiestoという表現も滅多に視ない表現をGoogleのDoodleで創っていましたので、遅ればせながらご紹介します。

「2024年3月17日発」

日本では寒の戻りのような天気で桜の開花も遅れているようですが、パラグアイでは猛暑が続いています。

首都アスンシオンでは40℃を超える日が続いた結果、家庭や事務所での冷房機器の稼働率が上がって送電網の負荷があがり、結果として停電が頻発している模様です。

https://www.ultimahora.com/colapsa-el-sistema-electrico-ante-el-calor-y-ande-culpa-a-poca-inversion

一旦停電が発生すると、当然交通信号も作動しなくなるので、道路も混乱して渋滞が多発します。

https://www.lanacion.com.py/pais/2024/03/16/reparan-semaforos-danados-por-cortes-de-luz-y-evaluan-plan-de-contingencia/

今住んでいるブラジル国境地区には世界最大の水力発電ダムItaipuがありますが、配電公社ANDEのシステムはかなり複雑な様で、発電所近くと言っても停電は頻発しました。と言ってもアスンシオンでは長時間に亘って停電が続く地域もあるようで、色々なところで機能停止の不都合が生じている模様です。

停電のニュースとともに、報じられているのが、アイルランドの春を告げるセントパトリックデーを祝う緑色のイルミネーションがパラグアイ大統領府でも点灯されているということ。

https://www.abc.com.py/nacionales/2024/03/16/sitios-emblematicos-se-iluminaran-de-verde-por-fiesta-nacional-de-irlanda/

セントパトリックデーに緑色の帽子を被ってビールを飲んで祝う習慣というのは、2014年にブラジルに転勤して初めて知ったのですが、商業主義と共に色々な習慣が広まって、今ではパラグアイ大統領府も巻き込んでの大きなイベントになっています。

https://saijigoyomi.com/saintpatricks-day/

上の大統領府の写真はチョッと気味悪い印象を持たれるかもしれませんが、普段の様子は柵のないオープンで荘厳なイメージの建造物です。

幸いにも大統領府の機能はシッカリ働いていますので、停電による色々な苦情の処理も随時行われていくものと期待しています。

「2024年3月24日発」

パラグアイではこの日曜日3月24日から冬時間となり、日本との時差が13時間になります。つまり時計が1時間遅くなるということ。これを報じるLa Nacion紙では、夏時間冬時間というのは時代遅れの措置(medida obsoleta)ではないか?とのタイトルで疑問を投げかけています。

https://www.lanacion.com.py/pais_edicion_impresa/2024/03/19/este-domingo-se-atrasa-la-hora-en-paraguay-medida-obsoleta/

春分秋分を境に時間をずらすのは、省エネ目的で欧州主導で導入された制度ですが、今年はチリが行う以外、中南米のその他の国では夏冬時間の変更を廃止したようで、今まで同じ時間帯で生活していた川向うのブラジルと時差が1時間生じるので、少しややこしい生活が始まります。特に携帯電話は現在の居場所を感知して、その場所の時間を表示しますが、国境で生活していると、日によって感知される国名が違って来て、時差ができると携帯に連動した腕時計の時間までが変わるので、注意しながら過ごさないといけません。

https://www.time-j.net/WorldTime/Area/SouthAmerica#google_vignette

ところで、今週水曜日に今後新しいガソリンスタンドを作ってはいけない、という法令が発布されました。確かに、2016年にブラジルから引っ越してきてから今日まで、国中の至る所でガソリンスタンドがどんどんできるのを驚きの目でみてきましたので、この辺でストップがかかっても不思議ではない、という感じです。

下の表は国別のガソリンスタンドの総数と、人口十万人あたりの軒数です。パラグアイがダントツに多いことがこの表からも読み取れます。少し違和感を感じるのは、産油国ベネズエラの数字。最後に国を離れたのは2012年ですから、丁度12年前で、その時から大幅に減ったのかな?という印象です。

ちなみに2022年末時点での日本のガソリンスタンドの数は27,963ヵ所で、人口10万人当たり23。ブラジルよりは多く、パラグアイより少ない計算です。ただ、日本で最も多くのスタンドが営業していた1994年には全国に60,421ヵ所のスタンドがあり、人口10万人当たりの数では50と、圧倒的に供給過剰であったことが良く解ります。

日本でもこれだけ減っているので、ベネズエラでの減少も事実なのかも知れません。

電気自動車シフトが進むと言われる世界ですが、一方でハイブリッド等への回帰もトレンド化しているとの報道もあり、何が時代遅れなのかまだ見極められないのが実情でしょう。ところで、フォード自動車が撤退したブラジル・サルバドールの工場跡地を買った中国の大手自動車メーカーBYDが、投資金額を当初の予定より83%増やして10億ユーロを投じることになったとの報道が19日にありました。

https://www.infobae.com/espana/agencias/2024/03/19/la-china-byd-elevara-un-83-su-inversion-en-brasil-hasta-unos-1005-millones-de-euros/

新工場では年産15万台の生産から始めて、順次台数を増やす計画のようで、ブラジル製の電気自動車が安価に提供されるようになると、パラグアイのガソリンスタンドは日本のように激減するのかも知れません。また業界最大手のトヨタ自動車も2030年までにブラジルで22億ドルを投じてハイブリッド車を中心とした生産を強化すると発表しています。https://www.revistaeyn.com/empresasymanagement/toyota-invertira-us-2200-millones-para-fabricar-autos-hibridos-en-brasil-GI17970413

因みに世界中で登録された自動車の台数は14億台、そのうち南米は83百万台だそうです。 https://motor.elpais.com/actualidad/cuantos-coches-hay-en-el-mundo-en-circulacion/

2022年と23年の新車登録台数を示すこの地図に残念ながらパラグアイのデータは含まれていませんが、2020年の統計では年間新車登録台数が2万台程度でしたので、人口で半分のウルグアイの数より少ないように思えますが、中古車の台数約10万台をふくめると、ペルーに匹敵する台数のクルマが年々増えている計算となりますので、ガソリンの需要ももう暫くは伸びていくのかも知れません。

「2024年3月31日発」

今週はブラジルのパラナ州各地をクルマで訪問しました。

先ずパラグアイ出国を最寄りのCiudad del Este→Foz do Iguacuではなく、北上してSalto de Guaira→Guairaを通過、Cascavel、Curitiva、Ponta Grossa、Guarapuavaといったパラナ州の主要都市を廻りました。

これまでもこのルートは何度か走ったのですが、コロナ禍の2021年から道路の管理会社と州との契約更新に手間取って、二年以上に亘って有料道路の料金所が閉鎖されて無料で走れていました。しかし、先週から一部区間で料金所が再開して、今回はクリチバ周辺のいくつかの料金所で徴収されました。


↑まだ無料の料金所


↓今回再開したのは赤線と青線の区間

木曜日にクリチバを発ってPonta Grossa経由Guarapuavaに来たのですが、途中のSão Luiz do Purunãという料金所では、担当者がまだ収受に慣れていない所為かいちいち大変な時間をかけて徴収作業を行っているために渋滞が発生しており、テレビ局がその様子を取材していました。この報道によると、金曜日は更に激化して7㎞の渋滞となったようです。

https://bandnewsfmcuritiba.com/pedagio-de-sao-luiz-do-puruna-registra-filas-nesta-quinta-feira/

日本では連休前後の高速道路で20㎞以上の渋滞も発生するので7㎞はたいしたことないと思われそうですが、これほどの行列に慣れないブラジルのドライバー達は、料金所近くになるとクラクションを鳴らして料金所の再開に抗議の意を示しており、非常に喧しかったです。

パラナ州の有料道路の料金は、端数が多いのも問題点と言えそうです。

上の高速道路図の青線で描かれたLote 1の料金は以下の通りなのですが、いちいち小銭が混ざるので、当然手間がかかります。

São Luiz do Purunã – R$ 8,70
Lapa – R$ 11,50
Porto Amazonas – R$ 10,90
Imbituva – R$ 10,00
Irati – R$ 10,20

https://www.gazetadopovo.com.br/parana/como-conseguir-desconto-tarifa-pedagio-parana/

パラグアイの高速道路と違って全ての料金所でクレジットカード払いが出来るので、その場合は少し早く決済できます。また、日本のETCに相当する自動徴収システムも導入されていますが、それを搭載した車の数が少ないので、ゲートも少ないし却って混乱を招いています。

さて、明日はいよいよSemana Santa=聖週間の重要な日曜日Santo Domingo聖なる日曜日です。今回のブラジル訪問でも、各地の教会に立ち寄って、Pascua=復活祭の色々な儀式にふれてきました。下の写真はパラナ州のヘソと言えるGuarapuavaの宿で撮影した土曜日の日の出の様子。天気予報では日曜日も綺麗な御来光が拝めそうです。

Feliz Pascua!

以    上