『ブラジルの人と社会 [改訂版]』 田村 梨花・三田 千代子・拝野 寿美子・渡会 環共編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジルの人と社会 [改訂版]』  田村 梨花・三田 千代子・拝野 寿美子・渡会 環共編


ブラジル理解のためのよき参考書として1982年に上智大学外国語ポルトガル語学科創設以来に講じられてきた「ブラジル社会論」の教科書として編まれた前版(本誌2017年夏号で紹介 https://latin-america.jp/archives/24522 )はブラジルを理解する上で有用な図書であったが、7年経って新しい視点から加筆修正し、コラムを追加した改訂版である。
ブラジル社会の多様性と格差から始まり、多人種・多民族社会形成の歴史と社会成層化、ブラジル社会形成過程で重要な機能を果たした宗教と家族制度、20世紀以降の都市化にともなって生起した社会的問題、新憲法下での市民権、社会的格差克服の手段としての条件付き現金給付政策、ジェンダー問題としての女性の社会参加、1980年代の経済停滞とともに始まったグローバル規模でのディアスポラ(越境)と日本を含む各国でのブラジル人コミュニティ、その結果探求されるようになったアイデンティティの行方や文化伝搬に至るまでを解説し、それぞれの章に関連した読み易いコラム、資料として行政地図、参考文献表、索引も付されている。
政治経済のリアルタイムの解析よりも、今あるブラジルを作り上げてきた政治文化の理解を社会を知ることから深めることを目的に構成された、ブラジル社会の基底を分かり易く解説しコンパクトに纏めた有益な1冊。

〔桜井 敏浩〕

 (上智大学出版発行・ぎょうせい発売 2024年4月 265頁 2,100円+税 ISBN978-4-324-11408-7)
〔『ラテンアメリカ時報』2024年春号(No.1446)より〕