執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
パラグアイの言葉 fiable(フィアブレ)=信頼できる 英:reliable 葡:confiável
日本でも報道されている通り、岸田首相がブラジリア訪問後アスンシオンに来られました。
日本の首相によるパラグアイ訪問は2018年12月の安倍首相以来二度目ですが、前回はアルゼンチンでのG20会合の帰りに立ち寄った形での数時間の滞在でしたが、今回はブラジルとパラグアイを目的地とした訪問で、アスンシオンに宿泊されたという点でも画期的な行事となりました。
政府よりのLa Nacion紙では多くの関連記事を載せて、この外交行事の重要性を強調しており、中立のUltima Hora紙も岸田首相の演説をトップ記事に据えてPrimer ministro de Japón valora a Paraguay como un socio fiable en América Latina(日本の首相がパラグアイをラテンアメリカでの信頼できる仲間と評価)と極めて好意的に報じています。
また首相はパラグアイ中央銀行の大講堂で開催された現地在住の日本人との集会で、日本人移民の重要性や日本の将来発展の為に引き続き尽力する旨の演説を行い、集まった聴衆の喝采を浴びていました。
これに先立ってトヨタ自動車のディーラーであるトヨトシ本社では、ペニャ大統領も招いてビジネスフォーラムを開催し、日本企業の進出を誘致するためのイベントを展開していました。 https://www.lanacion.com.py/negocios/2024/05/03/visita-de-primer-ministro-de-japon-marca-esfuerzo-para-atraer-inversiones/
一方、反政府系の新聞abc color紙では、金曜日に大雨が降って5000家族が冠水被害を受けたことと、岸田首相と同じタイミングでパラグアイ入りしたコロンビアのポップ歌手Karol Gの来訪をトップに掲げていました。
https://www.youtube.com/watch?v=I1EANc_QqJo
日本では問題山積の首相ですが、地球の反対側にあるブラジルやパラグアイでの’70年代高度成長ニッポンのような経済躍動ぶりや、昭和の日本人のような南米日本人社会が活躍する様子を実際に見られて、’80年代の「Japan as #1」復活を目指した信頼できる国政展開をお願いしたいものです。
パラグアイの言葉 red vial(レド ビアル)=道路網 英:road network 葡:rede rodoviária
皆さんは日本の道路の総延長距離がどのくらいかご存知でしょうか?国土交通省によると、日本の道路の総延長は令和3年3月31日現在 1,283,725.6 kmなのだそうです。1億2500万人の人口で割り戻すと、国民一人当たり10mという数字になります。自動車保有車両数は83,024,665台で、一台あたり約15m。以前、日本中のクルマが一斉に道路に出たら納まりきれないという話を聞いたことがありますが、15mあればそこそこ納まる気もします。
さて、翻って今週の5dias紙に掲載されたパラグアイの道路事情に関する記事で、南米の道路事情について考えてみます。
この記事によると、パラグアイの国道の総延長は49,434㎞、日本の26分の1という数字で、随分少ない印象を受けます。
最も長いアルゼンチンで855,713㎞、大国ブラジルは727,041㎞。でも、この数字を日本と同様に人口や保有自動車数で割るとどうなるでしょうか?
アルゼンチンの人口は4623万人(18.5m/人)で、自動車は2163万台(40m/台)。
ブラジルは人口2億1530万人(3.3m/人)で、自動車は9386万台(7.7m/台)。
パラグアイは人口678万人(6.3m/人)で、自動車は187万台(26m/台)。
https://apps.who.int/gho/data/node.main.A995
南米各国の自動車台数は2016年前後の数字ですから、現在はもっと多くなっています。ただ、道路の整備も進んでいますから、比較の目安としてはこれでも良いでしょう。
最初にご紹介した記事では、面積1,000㎢当たりの道路延長距離でパラグアイの開発が未熟であると指摘していますが、人口密度や主要産業が農牧業であることを考慮すると、この見方は必ずしも正しくないと思われます。
ただ、南米南部各国では今後も人口の増加に伴って自動車の保有台数も増えることが確実視されますので、道路の整備が急務なのも事実であり、そのためのインフラ整備資金の充当も政府にとって重要な課題であると言えます。
先週5月1日には、パラグアイ国道一号線の再整備に関する国土交通大臣の発表もありました。
一方、岸田総理の御来パに同行して取材に来られた政府関係機関の方を御案内して、世界最大の水力発電ダムを有するイタイプ公団に行ってきましたが、ここで対応して下さったプロジェクト関係者は「電気の有効活用の一つとして、全国の国道の要所に電気自動車の給電スタンドを設置しており、電気自動車のためのインフラという観点では、パラグアイは世界で最も整備が進んだ国である」と豪語しておられました。
道路の舗装整備だけでなく、電気自動車のための設備の充実を同時に行うという点では、人口や自動車の台数が少ないパラグアイの方が、大国よりもスピーディーに物事が運ぶものだと感心しました。
因みに下の図は、主要各国の高速道路の距離数を示したものですが、日本は道路総延長が128万㎞なのに、高速道路は僅か8050km(国交省の最新データでも9100㎞)ということで、ブラジルを下回っています。能登半島地震の例を見るまでもなく、インフラ整備に掛かるコストも今後の課題となる訳で、課金されない道路の比率が高いということは、税金でのカバー比率が高いということにもなりますので、納税者としては注視が必要かと思います。
https://elordenmundial.com/mapas-y-graficos/paises-con-mas-kilometros-autovias-autopistas/
道路インフラが改善されることで、農産物の物流にも変化が訪れます。交通インフラの進化からも目が離せない南米です。
パラグアイの言葉 cincuentenario(シンクエンテナリオ)=50周年 英:fiftieth anniversary 葡:quinquagésimo aniversário
これまでに何度もご紹介している世界最大の水力発電ダムを運営するイタイプ二国間公社ですが、この5月で1974年のブラジル・パラグアイ両政府による共同事業への調印・会社設立から50周年を迎えることになりました。Itaipú celebra cincuentenario con grandes proyectos socioambientales(イタイプは50周年の社会環境事業を実施)
この記事の中で、イタイプ公社が開発中の電気自動車が紹介されています。
これまでも欧米の自動車メーカーのボディを使っての試作はありましたが、今は韓国自動車技術院KATECHの協力を得て、完全に独自の試作車を作った様子が紹介されています。
イタイプ公団では日本の協力も得たいとの希望を持っており、先に公団を訪問した際にも紹介を依頼されました。
また、今日のLa Nacion紙では道路舗装のコンクリート化に関する法制施行に関する生コン商工会議所のコメントが紹介されており、今後パラグアイの公道舗装が国産資材であるコンクリートで行われるために、GDPの4%≒15億ドルの投資が継続的に必要となってくると報じています。
道路の舗装はこれまで輸入資材であるアスファルトが主に使われてきましたが、今回の法制により、耐久性や視認性の面での優位性を理由にコンクリート化を推進することが確認されたもので、発電インフラで発展してきた資金が、次の50年で道路の整備に活用されることになりそうです。
発展するパラグアイとは対照的に、前世紀には圧倒的な先進国であったベネズエラでの7月の大統領選挙に関するアンケート結果なるものが報道されていました。
ご覧の通り、ベネズエラ統一社会党首班であるマドゥロ氏が、連立を組むその他の党も代表するというイビツな仕組みによって、なんとも不思議な政党紹介の一覧表が紹介されていて、この国が米州トップの富裕国から20年余りの間に世界最低レベルの貧困国に落ち込んだ背景が良く理解できると思います。
PSUVを率いた故チャベス氏は、目先のバラマキ政策で国民の多数を占める貧困層の支持を得ることで政権を奪って、その死後も後継者マドゥロが不正を重ねて政権の座に居座っています。
パラグアイでは、陸のパナマ運河と言われる南米横断道路の建設工事も順調に進んでいます。https://rcc.com.py/videos/avanza-a-paso-firme-la-construccion-del-puente-de-la-ruta-bioceanica-entre-paraguay-y-brasil/
10年・30年・50年・100年という先々を見据えた政策をシッカリと策定し、実施に移すパラグアイ政府と、目先の権力にしがみつくベネズエラとの違いを今後も紹介していきますので、日本の皆さんも是非参考にしてください。
ペルーの言葉 abrigo(アブリゴ)=防寒服 英:coat 葡:casaco
パラグアイにも本格的な寒さが到来しました。
でも、今日はあえてペルーの新聞El Comercioの記事を御紹介します。
”A sacar los abrigos: la temperatura más baja del año se reportó en La Molina con 13.4 grados”(ラモリーナでは今年最低の13.4℃、コートを取り出そう)
ペルーの首都リマは赤道の南、約1300㎞の南緯12度に位置します。
アジアにおける北緯12度の地域は上の地図のようにインド・タイ・ベトナム・フィリピンの諸都市。暑いところ、というイメージですが、海岸の街リマは南極から北上するフンボルト海流の御蔭で暑さとは無縁、気候は比較的温暖です。
しかし、冷たい海流に温かい空気が触れることで水蒸気が発生し、それが西から東に吹く風に流されて陸地に向かうのですが、標高5千メートル以上のアンデス山脈に阻まれてリマの上空で滞留し、結果として一年を通じて12月から3月の短期間を除いてほぼ毎日曇りというお天気となっています。
そのリマでもエリアによって天候や気温が異なり、港のあるCallao地区周辺はいつも淀んだ魚臭さが漂っています。一方、記事に出てくるLa Molinaは海岸から少し離れていて、広域リマの中では比較的青天も出やすく凌ぎ易い地域なのですが、そこで5月なのに13℃というのは普通ではない感じです。
13℃という気温事態は日本でも寒いものの、そんなに厳しい寒さとは感じないですが、湿度が高く太陽が出ないリマでは15℃を下回るとものすごく寒さを感じるようになります。
翻ってパラグアイ・ブラジル国境の拙宅も、今朝は今年最低の6℃となりました。
天気は快晴ですが、最高気温は18℃という予報。この寒さは今週暫く続くようで、同じ南米南部という点では、ブラジル南部のリオグランデドスル州で洪水被害に遭われた方々が今週も再度の大雨に見舞われて、随分ご苦労されていることを想うと、大変心が痛みます。
またアルゼンチン中部の街Cordoba周辺では雪が降ったとのことで、パラグアイでも降るか?という記事も掲載されました。予報では雪は降らないまでも週末には一桁気温の日が続くので寒さ対策はこちらでも重要とされています。その一方、6月に入ると熱波がやってきて大変な暑さになるとの予報もあります。この時期、日替わりで暖房と冷房を必要とする寒暖差の激しい気候となる模様です。
台湾では新総統の就任式が行われ、パラグアイのペニャ大統領も式典に参列しましたが、この式典での頼清徳氏の発言の上げ足をとって中国軍が軍事演習を始めたことが日本では大きく取り上げられていますが、地球の反対側でベネズエラでは中国政府幹部がベネズエラをBRICSに取り込もうと投資促進に関する新たな合意を取り付けたようです。
この合意で、ベネズエラは中国にコーヒーと水産物の供給を約束したようです。
1988年にベネズエラに初赴任した時は、コーヒーの美味しさに感動したとともに、有名な産地であるコロンビアやブラジルに行った際に現地で飲んだコーヒーの不味さに驚いたものです。当時、コロンビアもブラジルも良いコーヒーは輸出に回して外貨を稼ぎ、国内では二級品以下のモノを飲んでいたので、不味いコーヒーしか飲めず、一方で石油や金属の輸出で稼いでいたベネズエラではコーヒーまで輸出する必要が無かったので、国内で美味しい豆が調達できた訳です。でもチャベス政権で国内経済が破壊された2008-12年の二回目の駐在では随分味が落ちたと感じたものです。今回の合意でベネズエラのコーヒーの味は益々不味くなることは残念ながら確実です。これもお寒い話です。
以 上