執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
ムリノ大統領の就任式
7月1日の昼、ムリノ大統領の就任式が行われた。就任後の国民への演説では、ムリノ大統領が、コルティソ元大統領から受け継ぐ公共財政が危険な状況だと強調しつつ、腫瘍病院への充当、ダリエン県の国境閉鎖、水道局民営化の否定、パナマ県とチリキ県の列車の建設、若者向けの「初めての仕事」(mi primer empleo)等のような政策を発表した。また、ムリノ大統領がこれらの政策を実施するため、緊縮財政が必要と述べた。さらに、PRD党関係者の家族や知合いが受けた返済義務なしの支援に関して、返済を求めるように努力するとも発表した。
パナマ国会の構成
6月21日に、パナマ選挙裁判所の判事が、5月5日に当選した70人の国会議員に資格証明書を手渡した。パナマ国会が71人に構成され、現在一人について選挙結果の裁判が行われている。7月1日に、ムリノ大統領の就任式前、国会議員はRM党のダナ・カスタニエダ議員が歴代の敵対関係を持った各政党議員のサーポート受け、44票で議長として指名された。国会の他の理事も政党に属している議員から選ばれた。
パナマ県-チリキ県の列車
6月20日に開かれた記者会見で就任前ムリノ大統領は、エンジニアのファルップ・マウアドがパナマ県とチリキ県を繋げる列車建設計画を担当すると発表した。パナマ市とダビッド市が約600㎞離れており、現在バスで約5時間かかっている。計画されている列車は、この距離を2時間半で走れると想定され、建設が6年間、駅員等のスタッフが約3千人が必要と予測されている。5月17日に開催された記者会見では在パナマ中国大使が、バレーラ政権(2014-2019)に中国政府がパナマ県―ダビッド県列車建設実行可能性調査を作成していることを指摘し、中国政府が建設に必要な支援や協力を提供できると強調した。しかし、ハビエル・マルティネス・アチャ外務大臣が他国の企業も列車計画に興味があると述べている。
移民問題
7月1日に行われた就任式では、ムリノ大統領がパナマ国民に選ばれ、移民問題について演説し、パナマ政府は、違法な移民の移動を認められないと述べた。6月23日のアメリカのNew Herald新聞とのインタビューで、就任式前のムリノ大統領が米国のバイデン大統領に対して、コロンビアと隣接するダリエン県の国境閉鎖を提案したことを述べた。ムリノ大統領は、選挙前から移民を確保し、強制返還を行うべきだと主張し、New Herald新聞のインタビューで、現在アメリカの国境はテキサス州ではなくて、パナマと考えられるため、アメリカ政府が強制的返還を負担すべきと述べ、一度返還が開始すると移民が減ると考えられると説明した。以上をもって、7月1日に、アメリカ政府が、返還に必要な設備、交通機関、その他の支援を提供することができるようにパナマ政府と基本合意書を署名した。
アメリカに向かっているコロンビアから入国する違法移民問題が継続している。パナマの入国管理局によると、2023年に520,000人以上の移民が入国し、2024年6月中旬時点で、約19万5千人を超えていると発表している。ダリエンにあるパナマとコロンビアの国境がダリエン地峡と呼ばれ、深さ60mの谷床、および1800mを超える山がある熱帯雨林地帯であるため、移民が非常に悩ましい状況に陥っている。
この問題を受けて、コルティソ前大統領が2023年9月20日に、国連総会の機会に、コロンビアのペトロ大統領が移民問題について対話を行ったが、両国の立場は一致していないことがわかった。ムリノ大統領の国境閉鎖計画を反対し、人道的な政策についての対談を求めている。
以 上