『ザ・ノース・フェースの創業者はなぜ会社を売ってパタゴニアに100万エーカーの荒野を買ったのか? -ダグ・トンプキンスの冒険人生』
ジョナサン・フランクリン
井口 耕二訳 山と渓谷社 2024年3月 384頁 2,600円+税 ISBN978-4-635-17211-0
「ザ・ノース・フェース」というアウトドア用品の一流ブランドを育てあげた創業者のダグ・トンプキンス(1943~2015年)は優れた経営者である以前に大自然を愛し、山、森林、河川で行動し、環境保護活動にも注力した並外れた男だった。自身世界各地に足跡を残した登山家であり、ザ・ノース・フェースを創業しアパレル企業エスプリを大きく育てブランドの大成功でいわば資本主義社会での頂点を極めた経営者であったが、1991年に会社を売却しサンフランシスコでの快適な生活を捨ててパタゴニアに本拠を移して最後の20年間を主に南米で過ごし、2015年にチリ・パタゴニアの湖水でカヤックが転覆して亡くなった。ちなみに同じくアウトドア用品の有名ブランド「パタゴニア」の創業者イヴォン・シュイナードとは16歳のころからの親友であり、ダグの遭難時にもカヤック行に同行していた。
自然環境保護活動にも従事し、生態系破壊から守るため幾多の困難を乗り越えてチリ、アルゼンチンのパタゴニアから南米最南端のティエラ・デル・フエゴに至る広大な国立公園の制定を実現させるなど、その波瀾万丈の人生は、現在ビジネス活動においても地球環境危機の解決を常に配慮しなければならない現代、登山家から起業家を経て環境活動家として実績を上げた一人の先駆者の生き様は、読む者にインスピレーションを与え挑戦する勇気をもたらしてくれるかもしれない。その生涯を克明に伝えるのは、ニューヨークとチリのサンティアゴを中心に活動している作家・報道記者。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2024年夏号(No.1447)より〕