平原 知佳(JICA ジュニア専門員・個別専門家)
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中米北部三角地帯での移民問題に関するJICAの取り組み 平原 知佳(JICAジュニア専門員・個別専門家)
中米北部三角地帯、あるいはNorthern Triangle と呼ばれるエルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラの3国から米国へ渡る非正規移民は後を絶たず、米国における移民流入人口は1990年の80万人から2020年の340万人と4倍以上増加している。非正規移民は、出身国における貧困、脅迫、自然災害被害等の問題に加え、北米へ向かう道中での犯罪被害など深刻な人道危機を抱えている。
これに対し、国際協力機構(JICA)では広域調査や専門家を活用した情報収集による現状把握、これらの調査により判明した根本原因に対する取り組みの実施(出身国への定住促進)、そして非正規移民の増加と共に増額している移民送金の有効活用による生活環境改善等の支援を実施している。加えて、本対策は1か国のみの支援で対応できる課題ではないことから、他機関(USAID やUNHCR)との連携強化を図っている。
移民発生の要因
移民発生の要因はいくつかあるが、大きなものは経済的要因、社会的要因(社会インフラの欠如)、家族の再統合、そして治安が挙げられる。
米州開発銀行(IDB)の調査によると、どの国も経済的理由(低所得、雇用機会の不足等)による移民が多い(エルサルバドル68%、グアテマラ87%、ホンジュラス75%)。また、経済的理由から移住した人の半数は失業が理由である。中米北部三角地帯は他のラテンアメリカ諸国と比べて貧困率が高く、また各国内でも都市部と農村部の格差が非常に大きいことが特徴である。
次に、社会インフラの欠如、特に、出身国の低い教育水準も移民の大きな要因となっている。教育水準は卒業後の職にも影響を与え、教育レベルが高いほどより給料の高い職を得ることができるため、子供へのより良い教育機会を求めて移住を決断するケースが多々見られる。家族のつながりを大切にするラテンアメリカらしい要因が家族の再統合だろう。IDB の調査によると、移民のうち約30~40%が既に米国などに移住済みの家族と再会するために移住を決断している(エルサルバドル45%、グアテマラ44%、ホンジュラス31%)。また、移住先に頼れる家族や親戚がいることは移住を成功させるための重大な要素の一つでもある。
一口に中米移民と言っても、国によって大きなばらつきが見受けられるのが治安を理由にした移住である。暴力と治安の悪さを理由に移住する人の割合は、エルサルバドル、ホンジュラスに比べてグアテマラが低い(エルサルバドル48%、グアテマラ27%、ホンジュラス43%)という調査結果が出ている。また国際移住機関(IOM)による2020年の調査でも同様の結果となっている。治安対策に関して、JICAはラテンアメリカ地域で地域警察プロジェクトを長年実施してきているが、同プロジェクトについては次項で取り上げることとする。
上記の理由に加えて、自然災害を理由にした移民も見受けられる。中米北部三角地帯はハリケーン、火山噴火、洪水等の災害リスクが高いのに加え、近年の気候変動により、中米乾燥回廊と呼ばれる非常に乾燥した地域が広がるなどの影響を受けている。移民の多くは農村部出身の農業従事者であり、このような気候変動の影響により従来の農業収入が得られず、域外への移住を余儀なくされる人が大勢いる。
これらの主要ないくつかの要因を見てわかる通り、それぞれの要因は独立したものではなく複雑に絡み合っている。例えば、教育などの社会インフラの欠如や気候変