『地球上の中華料理店をめぐる冒険 -5大陸15ヵ国「中国人ディアスポラ」たちの物語』 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『地球上の中華料理店をめぐる冒険 -5大陸15ヵ国「中国人ディアスポラ」たちの物語』


『地球上の中華料理店をめぐる冒険 -5大陸15ヵ国「中国人ディアスポラ」たちの物語』
関 卓中(チョック・クワン) 斎藤 栄一郎訳 講談社 2024年6月 448頁 2,000円+税 ISBN978-4-06-535382-0

著者は香港で生まれ、シンガポール、香港、日本では高校時代と情報システムコンサルタントとして働いた経験もあり、現在はカナダに居住している。ニューヨーク大学で映画制作を学び、世界各地で中国系ディアスポラを追ったドキュメンタリー映画を制作、人種差別反対社会運動にも関わっている。本書は各国の中華料理店を探訪した記録の書籍化。世界各地で中華料理がそれぞれの土地で環境に適応していった様子、離散して生きる中国人の姿を「地球市民」の視点で描いた実に興味深い旅行記。
北米、中東、アフリカ、北欧、アジアとともに取り上げた15か国にはトリニダード・トバゴのサンフェルナンド、キューバのハバナ、ブラジルのサンパウロとマナウス、アルゼンチンのブエノスアイレス、ペルーのリマでのそれぞれ食した中華料理とそれを供した店主、異境の地で中華料理を根付かせた人々の人生などを独自の視点で綴っている。
カリブ海地域で最大規模のカーニバルが行われるトリニダード・トバゴの長城飯店の豆腐花の味から始まるオーナー夫妻等の中国移民事情、キューバのチャイナタウンに見る革命後多くが去った中国人社会、毛沢東の大躍進運動で飢餓に陥った中国からブラジルに脱出し、サンパウロで屋台からレストラン4軒を展開するまでになった一族等、マナウスので麻婆豆腐を供するアマゾン地域初の中華料理店、ブエノスアイレス中心部で中国之家というコンセプトで中華料理店と太極拳・漢方薬教室等を開いている台湾からの中国移民、19世紀以降長いクーリー(肉体労働者)渡航の歴史の中でペルー有数のスーパーマーケット王を生み出し、半数以上はchifaと呼ばれる中華料理店を全土に2~3万軒展開していることなど、各国で著者が食した料理名とその感想、そこへ辿りついた経緯を糸口に世界各地で生き抜き現地の人たちと共生する中国人ディアスポラの艱難の歴史を追ったドキュメンタリー。

〔桜井 敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』2024年秋号(No.1448)より〕