冨田 晃 共和国 2024年10月 328頁 3,200円+税 ISBN978-4-907986-27-8
本書はラテンアメリカ・カリブ研究、芸術教育を専門とする弘前大学准教授が、18世紀フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソー(1712~78年)のフランス革命思想への影響とともに、その教育思想論『エミール』(1762年)の中で、小アンティル諸島の先住ガリフナ人について、コロンブスが記したことから人食いの習俗をもち言語をもたない未開人と書いていることに着目し、カリブの「人食い人種」とルソーの教育思想の「子どもの発見」との二つの「虚構」の発生と定着の過程、両者の関係を明らかにすることによって、近代という時代に潜む暴力の本質を示そうと試みたものである(「はじめに」より)。
第一章でカリブとブラジルを、第四章「カリブからの問い」で小アンティル諸島の英仏の支配権争いとそれに巻き込まれ最後は叛乱に敗れ中米大西洋岸に移された少数民族のブラック・カリブの歴史を紹介し、カリブ無文字社会文明をルソーが人間以前と位置づけていたことを紹介しているが、本書の主要部分はガリフナ文化研究者の立場からルソーを批判的に読みかえ、「人食い」言説、ルソーの不平等起源論、教育論、日本のおかしなルソー観(日本でルソーといえば「自然に帰れ」の言葉で説明される思想家というのが一般的だが、実はルソー自身はそう書いておらず、明治時代の評論で言われ始め1962年に出た桑原武男編の岩波新書に記載されたのが高校教科書に取り込まれたことから始まった)を論じたものであり、ラテンアメリカが欧州によってどのようにイメージされてきたのか、そうして築かれた欧州の世界観の下で日本の近代が築かれたことを指摘しているが、カリブ海に生きるガリフナの民の視点から世界史を読むというものではない。
〔桜井 敏浩〕