連載パナマ・レポート62:ルベン・ロドリゲス 2025年06月分 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート62:ルベン・ロドリゲス 2025年06月分


連載パナマ・レポート 62: ルベン・ロドリゲス 2025年06月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学講師・パナマ共和国弁護士)

I. 政治

A.緊急事態宣言の発令

社会保険庁改正に対するデモは継続している。コスタリカと接しているボカス・デル・トーロ県の治安が悪化し、民間企業および公共施設へのヴァンダリズムが相次ぎ発生している。農業商売局の倉庫から様々な社会支援のために利用される予定であった米・野菜などは盗まれ、複数の自動車も破壊されたため200,000ドル以上の損害を受けている。また、チャンギノラ市の空港、水道局の浄水場、司法の遺体安置所、社会保険庁も侵入され、これらの局で働いている職員も怪我を負っている。

以上をもって、6月20日に政府はパナマ憲法第55条に基づいてボカス・デル・トーロ県に限り5日間の緊急事態宣言を発令した。第55条は、戦争・国内混乱のような平和および治安を脅かす事情が発生した場合、緊急事態宣言の発令を条件とし、憲法が保障するいくつかの権利の停止を認めている。ただし同条では政府が発令する宣言の効果は10日間に限られ、それ以上継続する場合、国会による承認が必要と定められている。

以上に基づき政府がボカス・デル・トーロ県に警察官1,500人を派遣し、インタネットや電話のサービスを停止した。また、6月25日時点では、いくつかの地域では道の閉鎖およびヴァンダリズムが続いているため、政府は医療品や食料を送った上で緊急事態宣言は29日までの延長を発表した。6月27日時点、20人の未成年者を含めて370人以上がヴァンダリズムに参加した疑いで逮捕されている。また、アブレゴ防衛大臣はデモをきっかけとして強盗や暴力行為を行ったギャングが政治家の支援を受けていると発表したが、その氏名を公開していない。 

B.教員のストライキ

 ボカス・デル・トーロ県で発生している社会不安と同時に、社会保険庁総合法改正に反対している公立学校の一部の教員によるストライキが2カ月以上継続している。以上をもっ
て政府はストライキの終了を求め、6月30日に出勤しない教員は免職処分されると発表している。府が省略手続きを用いて、処分された教員の代わりを任命すると公表し、1万人以上が既に応募している。新型コロナウイルスパンデミックの影響によってパナマの公立教育機関は重大な悪影響を受けており、ストライキが続くと1年分の授業期間が無効になる恐れがある

II. 経済

A.パナマ運河

 今年、パナマ運河拡張が完了してから9年目となり、新たなルートで既に25,000隻が通行しているとわかった。2025年6月時点では、2,181隻が新たな運河を利用し、前年同期比21%(1,799隻)増加している。6月24日、米国ノーム国土安全保障長官はパナマに訪問し、アメリカ海軍軍艦の運河通行料免除を改めて求めたが、イカザ運河大臣は運河条約および運河運用法の元でこのような無償の通航は認められていないと述べた。1月に行われた就任式にて、トランプ大統領は、海軍の船を含めアメリカの船舶は高い通行料を請求されている上中国が運河を管理していると主張し、パナマ運河を取り戻すと発表したが、最近では主張の内容を通行料免除に変更している。

以  上