『飼いならす -世界を変えた10種の動植物』
アリス・ロバーツ 斉藤隆央訳 明石書店
2020年10月 445頁 2,500円+税 ISBN978-4-7503-5085-1
人類の祖先は野生動植物の狩猟・採集を行ってきたが、やがてその幾つかを飼い慣らして牧畜、農耕を営むようになった。本書は飼育・栽培するようになった9種の動植物を採りあげ、その人為的選択による育種と拡散の歴史を遺伝子などの科学分析も交え解説している。
ラテンアメリカに関わるものとしては、中米原産のトウモロコシ、チリで1万4,600年前の遺物が発見されたジャガイモについて解説している。トウモロコシが北米原産のあり早い時期に欧州にもたらされていたこと、多くのバリエーションがあり、最近の500年で驚くほどの速さで世界中に普及したこと、気候や栽培する人間による選択に応じて形態を変え適応しながら広まったこと、ジャガイモが野生種が栽培化されアンデス文明を支え、冷凍乾燥法などにより保存方法も工夫された。コロンブスが持ち帰ったというのは間違いだが、1550、60年代には入っていたが、その形状や迷信から暫くは食料として受入れられなかったが、凶作飢饉により1700年代以降欧州中・北部の経済を後押しし人口増加エネルギーとなり、都市化と産業化を支えた。しかしジャガイモに頼りすぎた単一栽培は、胴枯れ病蔓延の悲劇を生んだ。また近年遺伝子組み換えが試みられているが、まだ商品としては軌道に乗っていない。
野生動植物の「飼いならし」による飼育栽培の歴史を探るばかりではなく未来にも目を向けた科学啓蒙書である。著者は英国の人類学者・解剖学者で、バーミンガム大学教授。
〔桜井 敏浩〕