執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学講師・パナマ共和国弁護士)
A.国家予算
政府が、8月11日に2026年度の国家予算法案を国会に提出した。2026年度予算は349億ドル(前年同期比13%増)を見込んでいる。法案は3.5%の歳出赤字、4%の経済成長を前提とした上、社会保障への投資、および国立大学予算削減のような緊縮財政措置を中心とし、公債の返済を目指している。
8月21日に、チャップマン経済財政大臣は国会にて国家予算法案を説明したが、議員から様々な批判があった。特に、政府が国会の承認無く裁量で利用できる金額が問題となっている。現行法の下では、30万ドル以下の歳出に関しては説明と報告義務が課されていないのに対し、円滑な国家管理を理由として、2026年度の予算法案ではこの上限を100万ドルに引き上げる法律改正が含まれている。
国会議員は、上限の引上げは国会の管理役割妨害となる恐れがあるとして、反対している。これらの批判に対して、チャップマン経済財政大臣は、上限の引上げは政府の円滑な運営、サービスおよび国民への対応改善に不可欠だと説明した。
B.司法職員特別年金問題
7月15日に発令され、8月8日に官報に記載された最高裁判所第407号決定により、最高裁判所判事、下級裁判所裁判官、その他の司法職員に関する特別年金制度用基金が設けられた。
この新たな制度は、社会保険庁の年金制度に加えて、社会保険庁法の定める上限を超えて判事等の年金を支給するために設立され、最高裁判所判事の場合、受給月額は14,000ドルとなる。社会保険庁法の年金制度の下では、最大の受給月額は2,500ドル、警察本部長の受給月額は特別法により7,000ドルとされ、パナマ年金制度の最高額である。
司法職員特別年金制度に対して、ヨーロッパおよびラテンアメリカの判事等の年金の平均金額を倍以上超えているとの批判があった。また、このような制度の合憲性も疑われ、司法手続き上にも問題が発生すると指摘されている。8月12日に、最高裁判所は第407号決定の発行は「憲法および法律に従っている」と主張しつつ、一部の取消しを発表した。
また、普段、最高裁判所はこのような政令・決定などの合憲性を判断する役割を果たしているが、第407号決定は最高裁判所判事が作成したものであり、かつすべての最高裁判所判事・下級裁判所裁判官に利害関係があるため、合憲性訴訟を担当できないと考えられる。
以上をもって、8月21日に、最高裁判所は現在の経済的な事情を理由として、第407号決定の取消しを発表した。しかし、国会の無所属派議員Vamosは第407号決定のような制度や特権は憲法に違反すると主張し、同日、最高裁判所判事の月収には10,000ドルの絶対的上限を設け、かつ、特別年金の禁止、司法権における特権や免状禁止に関する法案を提出した。
以 上