執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役、在パラグアイ)
今週は所用でアスンシオンに出向きました。
その復路、首都アスンシオンと第二の都市エステ市とを結ぶ幹線道路である国道二号線の一部でサトウキビ栽培者達による道路封鎖があって、通常なら5時間程度で戻れるところ、9時間もかかっての帰宅となりました。

https://www.ultimahora.com/canicultores-suben-tensiones-y-eddie-jara-viaja-a-cancun https://www.facebook.com/share/v/1MR65U1S83/
サトウキビは南米各国で栽培されており、パラグアイは世界第25位の生産国となっています。

サトウキビの栽培に直接かかわる農業者は2万5千人と、総労働人口の0.5%程度にすぎませんし、今回交通妨害をしている約6千人の参加者達が主張するのは停滞している国営石油会社PetroPar社によるサトウキビの加工工場建設に関する事態の進展の要求という、少々判り難い問題です。
これ以外にも原住民の待遇改善を求める別の動きもあり、道路を封鎖して交通を妨害するという抗議行動が今後も続くことになると、経済活動を低迷させる要因になるだけでなく、政府が誘導しようとしている外国資本によるパラグアイでの投資にも影響を及ぼすことになるので、こうした動きをいかに抑えるか、という点も重要な政策課題となっています。
ただ、道路封鎖という抗議行動は南米ではどこの国でも行われていて、どの国においても頭の痛い問題です。
道路封鎖に対する一つの提案として、天然ガスのパイプライン建設というプロジェクトも紹介されています。
パラグアイでは現在家庭用などで使われるプロパンガスを西北の隣国ボリビアから購入し、タンク車で国境を越えて輸入しています。一方、南の隣国アルゼンチンでは新たなガス田の開発が進められており、ここで産出したガスをパイプラインでパラグアイ経由ブラジルに運ぶという計画が起草され、その実現に向けた議論が行われているという報道です。
世界でのエネルギー需要は今後もとどまるところを知らない勢いで増え続けますから、新たなエネルギー源やその輸送手段の確保はこれからも極めて重要なテーマとして取り上げられ続けます。
閑話休題、abc Color紙に面白い記事が掲載されていたのでご紹介します。
「イタリアでは何故パスタを食べるのにナイフを使わないのか?」
パスタにナイフ?使わないのは当たり前、と日本では思われると思いますが、以前ペルーで米国人のエンジニアたちと食事をした際、運ばれてきたスパゲティミートソース(boloñesa)をナイフでぶつ切りにして口に運ぶ様子をみて驚いたことがあり、もしかするとパラグアイでもそういう食べ方をする人たちがいるのかも、と思った次第です。この記事にはスパゲッティはなぜアルデンテでないと美味しくないか?などの蘊蓄も語っていますので、話のタネにしてみてください。スペイン語の記事ですが、Google翻訳機能を使えば日本語で読めます。
日本ではノーベル医学生理学賞と物理学賞の受賞で盛り上がった一週間でしたが、パラグアイ時間金曜日朝6時のニュースでノルウェーから即時配信されたノーベル平和賞のニュースも素晴らしいものでした。

上記はマイアミ発信のニュースサイトを日本語に翻訳したものですが、南米各国でマリアコリーナ・マチャド氏のノーベル平和賞受賞を祝福する報道が流れました。
以下は昨年7月に実施されたインチキ選挙結果を南米各国がどう対処するかを報じた日経新聞の記事ですが、今回のノーベル賞はこの結果に異議を唱える声をより強くする効果を発揮すると考えられます。

一方で、当のベネズエラの主要紙であるEl Universal紙には本件の報道は一切見当たらず、https://www.eluniversal.com/buscador#google_vignette
ブラジルのFolha de Sao Paulo紙には、ベネズエラ政府の国連大使が「マチャド女史は来年はノーベル物理学賞を取るだろう」と皮肉ったとの記事を掲載しています。
また、露骨にノーベル賞を欲しがっていた米国大統領がマチャド氏の受賞に不快感を示したことに関して、マチャド氏は即時電話で米大統領に電話をして謝意を表明したとのこと。https://cnnespanol.cnn.com/2025/10/10/eeuu/trump-habla-machado-premio-nobel-paz-trax
日本では無名と言っても良いマチャド氏、彼女が全国政界に登場した2010年にカラカスの貧民街で開催された彼女の集会に参加したことがありますが、社会主義を標榜しつつ、周辺の取り巻きを要職において国の経済を破壊していたチャベス氏を糾弾して、ベネズエラの民主化を取り戻そうと話す姿に感銘を受け、それ以来ベネズエラを立て直すのは彼女の力が必要と感じてきました。しかし、当時は両家の子女として育った経緯から「お嬢様が政治にクビを突っ込んで利権の回復を狙っている」という穿った見方も多くあったものです。しかし、その後チャベス→マドゥロとインチキ選挙で政権の座に居座り続けた勢力から激しい迫害を受けながらも、民主主義の回復に努めてきた成果が認められたことは、本当に素晴らしく、彼女を受賞者に選んだノーベル委員会も賞賛されるべきと思います。
嫉妬深い米大統領が彼女の受賞を妬んで今後のベネズエラ政策を変えないことを願いますが、米国が主導してベネズエラに民主主義が戻れば、最も多くの恩恵を被るのもまた米国ですので、ここは大統領周辺のブレーンがシッカリ働いてくれることに期待したいところです。 https://cnnespanol.cnn.com/2025/10/10/venezuela/maria-corina-machado-nobel-paz-impulsorix?iid=cnn_buildContentRecirc_end_recirc&recs_exp=relacionado-article-end&tenant_id=related.es
ベネズエラには世界最大の埋蔵量を誇る炭化水素資源のほかに、鉄・アルミ・金などの金属資源や世界最大級の水力発電所が生む電力など豊富な天然資源が存在するだけでなく、世界最高落差の滝やカリブ海のリゾート、アンデス山脈の万年雪を頂く山頂に登れるロープウェイなど観光資源もあふれています。今回のノーベル賞がベネズエラの体制転換に結び付けば、失われつつある南米における米国の存在感の回復にもつながると考えられるので、今後の動きにも是非ご注目ください。
今日土曜日は、パラグアイでは首都アスンシオンでも第二の都市エステ市でも買い物渋滞が発生する曜日として認識されています。
特に商都であるエステ市では、日曜日以外のあらゆる曜日でブラジルからの買い物客で国境となる友情の橋を起点に頻繁に渋滞が発生するので、渋滞の景色は見慣れたものとなっていますが、今日の渋滞は普段よりも激しいもので、しかも普段であれば水曜日や木曜日にみられるトラックの行列が国境から11㎞以上離れた陸の港と言われる陸上税関周辺でもみられたので違和感を覚えながら16㎞近辺に出向きました。

家に帰ってネットでニュースを調べると、これがブラジルの川港で発生した河川税関でのトラブルが原因で、通常であれば河川港を通過する多くのトラックが南下してエステ市の陸港税関に集中していたことが原因と判明しました。
”400 camiones quedaron varados en Brasil esperando despachos”(ブラジルで400台のトラックが出荷待ちで立ち往生)
https://www.ultimahora.com/400-camiones-quedaron-varados-en-brasil-esperando-despachos
と書いても、地図がイメージできないと全く意味が不明のニュースと思います。
下のブラジル地図をご覧ください。

今回川港の税関で職員の休暇で混乱が生じ、400台のトラックが立ち往生しているのが赤い丸で示されたパラナ州サンタヘレナです。

この記事を読むまでは筆者も知らなかったのですが、エステ市から北に100㎞ほど行ったところにPuerto Indoというパラグアイ側とSanta Herenaというブラジル側の街の間をフェリーが渡っており、これが両国間の物流の動脈の一つになっており、ブラジル側で税関の手続きが滞ったために多くの車輛がこのルートを断念してエステ市を目指してきた結果が今日の異例な渋滞の原因だったようです。
パラグアイは大豆だけで年間1千万トンを生産する世界第6位の生産国で、その多くをブラジルやアルゼンチンに輸出しています。これは、世界最大の消費国である中国が、国交を持たないパラグアイから直接買い付けを拒否しているためにブラジルやアルゼンチンが輸出して両国の国内需要をパラグアイ産で満たすという構図になっているからですが、そのほかにも飼料用トウモロコシやコメ・小麦などがブラジルに輸出され、その量は年間5百万トン以上になっています。つまり、一日平均1万5千トンの穀物がパラグアイからブラジルに輸出されているわけで、仮に一台あたりの積載数量を30トンとしても、一日500台のトラックが国境を渡っている計算になります。
ちなみに日本では一般道の最大積載数量は20トンと定められていますが、パラグアイでは28トンから45トンを積んだトラックが幹線道路を走り続けているために、道路の消耗も激しいのが実情です。
普段は誰も知らない川港の職員が休暇で不在となっただけで発生する幹線道路の大渋滞、バタフライエフェクト(ブラジルでの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こす)とまでは言いませんが、やはり色々な事象がつながっていると感じさせられる一日でした。
ちなみに今後も増加が見込まれる貨物量に対応するために、エステ市南部のプレジデンテフランコ市とフォスドイグアス市との間に新しい橋が架けられており、来年の開通を目指して両側の取り付け道路の工事が進んでいるほか、ブラジルからパラグアイ・アルゼンチンを経てチリの港をつなぐ南米大陸横断道路の建設も同じく来年の開通を目指して建設工事が佳境を迎えています。
交通インフラの問題解決を目指して着々と工事が進むパラグアイと周辺各国の様子は、近い将来の世界の物流にも大きな変化をもたらしますので、引き続きご注目ください。
7月の参院選以降、すったもんだの末、日本では石破首相から高市首相への政権の刷新が執り行われました。わずか一年足らず間に生じた政権交代ですので、南米では先ず、新首相の高市早苗ってどんな人?ということで、これまでの足跡や政治のスタンスに関する紹介をする記事が見られました。と言っても、日本の首相交代のニュースが大きく報じられたわけではありません。

パラグアイの首都アスンシオンでは、増大する都市人口に対してインフラの整備が追い付いていない部分が多々あって、現在あちこちで上下水道の整備事業が行われています。

あらためて調べてみると、今から75年前の1950年のパラグアイ総人口は僅か130万人、それが2022年の国勢調査の結果610万人(およそ5倍!)となっていて、エステ市で国境を渡ってパラグアイに買い物や就労に来る人たちの昼間人口も含めると、今や700万人近い人口構成となっています。前回調査の2002年の人口が516万人ですから、過去20年間だけでも、ほぼ1.2倍に成長しているということで、しかも上左図のように、人口の多くは首都圏に集中していますので、この地域に限って言えば一気に二倍近い人口増加が生じているとみなすことができます。そこで盛んに行われているのが、前段でご紹介した上下水道などのインフラ整備事業です。https://www.lanacion.com.py/ojo/2025/10/14/plan-500-km-en-manora/

住宅街のど真ん中で大きく道路を掘り返して、下水管を大型の暗渠にしたり、上水道のパイプを大口径のものに移設する工事があちこちで行われているわけです。
こうした工事は期間中付近の住民には大変な不便を強いることになるのですが、完成後は街のあちこちで起きていた上水の漏水や、豪雨時に生じる排水のオーバーフローなどの問題が解消することになりますので、住民も我慢しなければなりません。
翻って日本は1950年の8000万人強の人口から現在1.2億人となって既に減少に転じており、しかも高齢化比率が高まる傾向を示しています。

AI化の進捗によって労働人口の現象に対応可能とする意見もありますが、高齢化社会を支えるための若年人口の不足を補うためにも、外国人就労者を迎えることは極めて重要と思いますが、このあたりの対策を日本の新政権がどう捉えるのか?注目すべき点です。
しばらくの間はアスンシオンの住民のように不便な時期を過ごす必要があるでしょうが、安全安心な将来を迎えるためには、ある程度の痛みも我慢できる体制を整えることが重要と言えるでしょう。
以 上