執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役、在パラグアイ)
10月21日、高市早苗氏が日本で初めて女性の総理大臣に就任してから1週間以上が経過、就任早々の外国訪問や米国大統領の来日など、超多忙な日々を送っておられますが、同じ年代の女性総理の活躍を目にすると、そのバイタリティには敬意を表せざるを得ません。
1975年10月24日にアイスランドで国民女性の90%が一斉に休みをとったDay Offから半世紀、このイベントをキッカケにして世界中で男女平等の動きが進み、日本でも1985年に男女雇用機会均等法が公布され、翌86年に施行されたことで、職場における女性の地位が少しずつ向上してきました。
https://www.nationalgeographic.com/history/article/icelandic-womens-strike
と言っても、筆者が所属した会社では女性管理職の登場に至るには相当な年月がかかっていて、現役時代に女性管理職と仕事で協業する機会は訪れないまま純定年退職を迎えました。
調べてみると、パラグアイでも1919年(大正8年)に女性参政権の訴えが却下されて以降、1961年に多くの権利が確立されて、その後も女性の地位向上を目指す色々な動きがあったようです。

2018年に最後の任地パラグアイで定年を迎え、その二年後に駐パラグアイ大使としては初の女性大使をお迎えし、また当時のパラグアイの政権では重要ポストである商工省がやはり同省としては初の女性大臣を迎え入れて、日本もパラグアイも女性の社会進出が進んできたとの印象を強く受けました。
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/event/2025/10/11241
https://www.abc.com.py/nacionales/cramer-ministra-de-industria-y-comercio-1724137.html
そんなパラグアイですが、今日の新聞には農村土地開発庁(INDERT)の農業局に初の女性局長が誕生したというニュースが掲載されました。
2023年に発足した現政権では、当初から重要閣僚ポストである国土交通省大臣に女性エンジニアが就任されていて、就任当初から精力的に全国各地の工事現場を訪問し、道路を主体とした国土交通インフラの改善のために働いている様子が頻繁に報じられています。
今日新しい農業局長の就任が報じられたINDERTという役所は、パラグアイの農村部の開発を主眼に、先住民の待遇改善にも取り組む組織で、地味ながら国家の発展のために重要な役割を担っています。現長官は前政権の時に商工省の副大臣だった人物で、当時はよく面談しましたが、今や彼の活動の中心がチャコ地方に移ったことで、なかなか対面で話をする機会はなくなりました。今回彼が能力優先で指名した女性局長が活躍することで、パラグアイの農業が益々発展することに期待したいところですし、内陸国がゆえに輸出アクセスが限られてきた過去の経緯を払しょくするために、南米大陸横断道路というインフラ整備を進めて貿易においても周辺各国との対等交渉権を確立しつつあるパラグアイ女性の活躍に、益々期待が高まります。
ちなみに今日の言葉igualdadは、パラグアイ国歌のクライマックスでも¡Unión e igualdad!と強調するフレーズで、協調と平等が国家の維持に最も重要なテーゼであることを謳っています。
https://www.youtube.com/watch?v=17roe9HJis4
https://embapar.jp/paraguay/himno-nacional/
11月9日はパラグアイにおけるEl dia nacional de Mandioka(ユカ芋の日)です。
ユカ芋はキャッサバ・タロ芋・タピオカなど地域によって色々な名前を持つ農作物ですが、その原産地はブラジル北西部かメキシコ西部とされ、16世紀の大航海時代にアフリカへ、19世紀にはアジア各国にも持ち込まれ、いまや世界中で栽培されています。

日本ではあまり馴染みのない食べ物ですが、世界レベルで比較すると、小麦=13.7億トン、トウモロコシ=11億トン、コメ=4.8億トン、大豆=4億トン、ジャガイモ=3.8億トンに次いで3.3億トンが生産されている主要農産物の一つと捉えることができます。
主な生産国はナイジェリア・コンゴ・タイ・ガーナ・ブラジルで、この5カ国で世界全体の55%を生産しています。パラグアイは世界ランキングでは20位となる330万トンを生産していますが、大豆・トウモロコシ・小麦・コメに次ぐ重要な農産物として位置づけられ、栽培面積が10ヘクタール以下の小農家にとって貴重な収入源となっている作物です。

マンジオカは乾燥に強く、また痩せた土地でも耕作可能な作物で、それが南米大陸から世界に広まった理由のひとつでもある訳です。
日本ではブラジルから逆移住した日本ルーツの皆さんが持ち込んで栽培されているケースがほとんどで、認知度も極めて低いですが、少し前に流行したタピオカ紅茶の中でプルプルしていたものもマンジオカ澱粉。澱粉分を精製した粉末は食品に強い粘り気をもたらすので、冷凍うどんのコシをもたらす材料としても使われています。
https://agri.mynavi.jp/2019_12_26_100681/
栽培に手がかからないという理由で人気の作物ですから、日本でも中山間地での栽培に適していると考えられており、具体的な取り組みも始まっています。
ところで、昨日金曜日の夕方5時頃、激しい雷を伴う豪雨となって、一時間半にわたって停電が発生したのですが、同じ時刻にブラジル側では大規模な被害を伴う竜巻が発生していたことが判明しました。
パラグアイとの国境から約300㎞東方面にあるRio Bonito do Iguaçuの街は市内の90%の建物が壊滅的被害を被り、少なくとも6名の方が亡くなられたと報じています。
またこの竜巻はその後東に進み、各地で倒木や停電の被害をもたらした模様です。
地震や台風による被害の少ない南米南部地域ですが、雹や雷・突風や豪雨の発生は各地で確認されます。これも気候温暖化の影響によるものと考えられますが、気候変動が農業や水産業にもたらす影響も年々多く報告されるようになっている今日、日本でも災害対策の一環としてマンジオカの栽培を開始すべきと考えます。
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002337.html
ブラジル北部アマゾン川河口の街、ベレンで国連気候変動枠組条約締約国会議COP30が開催されています。

おそらくブラジルに住んでいる日本人でも、ベレンを訪れたことのある人はそんなに多くないように思いますので、この機会にベレンがどんな街なのか、少ない日本語情報を以下に添付します。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/iken/06/souryouji/39.html
https://www.belem.br.emb-japan.go.jp/files/000320321.pdf
そもそも、COP=Conference Of the Parties=締約国会議というのは、1995年に始まった気候変動対策について話し合う国際会議ですが、会ごとに内容がことなるために正式の参加国リストが存在しないのだそうです。
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20251107-topic-81.html
今回も温暖化を否定する米国政府が不参加となり、州政府や議員の個人レベルでの参加にとどまっているために、日本からも閣僚を含めて政治家の参加はない模様で、関係省庁の実務者レベルが現地入りして参加各国との会合に対応しているようです。
連日ニュースを賑わせている熊の出没問題を含め、自然界の変化も、気候変動がもたらした結果であることは明白ですが、金儲けを優先する米国政府によって今後世界的な対策がどうなるのか?という懸念が広がっています。
熊の被害を報じない日がない最近の日本ですが、中山間地で生活する人たちにとっては随分以前からイノシシやシカの出没は大きな問題であり続けていました。名古屋で肥料販売に携わっていた2000年代前半に中部地方の農地を多く訪問しましたが、日本の農地は山に近いということもあって、あちこちで獣害防止用の電線が張られ、自然との共棲の問題点について考えさせられてきました。
一方、先週土曜日は近くの日本人移住地であるイグアス市近郊の御宅でワニが出たという情報がありました。

このワニは緊急出動した消防士たちによって確保され、近くの湖に離されたということで、被害もなく終わりましたが、出動した消防士たちが女性であったことはチョットした驚きでした。

先月、拙宅の近所を散歩中に野生のシカを見つけましたが、野生動物というのは人間が里をつくる以前から住んでいたからこそ野生なのであると同時に、野生動物と安全に共棲できる環境造りこそが人間が今後も生きながらえるために重要なポイントであり、その意味でもCOP会議に参加している皆さんの前向きで有意義な合意の形成を期待したいところです。
ペルーでCOP20が開催された2014年にはウチの次男はリマの高校に通っており、学生代表としてCOP20会議に参加させてもらったという御縁もあります。
国連の存在意義そのものが主要国によって否定されつつある昨今ですが、調和が崩れつつある今こそ、改めて国際的合意に向けての努力と、そうした動きを知ることでの支援の輪が広がることに期待します。
今週は所用でアスンシオンに出向いたものの、宿泊先の確保にいつも以上に苦労しました。その理由は今日行われたサッカー南米カップの決勝戦ブラジルAtlético MineiroとアルゼンチンLanúsの試合です。

サンパウロの北側に位置するミナス州のBelo Holizonte市からパラグアイのアスンシオンまでは約1800㎞、バスでおよそ25時間の道のりであり、この試合観戦のために1万人のファンが国境を通過しただけでなく、丁度この週末が商都エステ市におけるブラックフライデー商戦の真っただ中となったために、買い物客がおよそ10万人押し寄せて、ブラジルからパラグアイに入る国境は大渋滞となったようです。
https://www.ultimahora.com/unos-10-mil-hinchas-de-mineiro-ingresan-al-pais-por-el-este
アスンシオンでは金曜日の昼には現地入りしたブラジルやアルゼンチンのファンが市内のショッピングセンターなどを闊歩しており、インバウンド観光効果というものをパラグアイでも実感できた次第です。

試合はPK戦の末、アルゼンチンが勝利して南米カップ優勝チームとなったようです。
南米におけるサッカー熱の凄さは、試合のある晩は近所の家々から誰からゴールを決めるたびに大歓声が聞こえてくるので、「ああ、今日はサッカーの試合が行われているんだ」と理解できるほどで、大きな試合になると視聴率は50%近くになっているのではないか、と容易に想像できます。
アスンシオンの宿も、普段の3倍ほどの料率に値上げするところがほとんどで、こういうイベントのタイミングで首都を訪問するのは得策でないことが痛感された週末でした。
コロンビアの歌姫Shakiraがアスンシオンでコンサートを開催しました。

人口700万人弱のパラグアイの首都アスンシオンは拡大都市圏を併せても200万人程度の頭数で、しかも一人当たりGDPも5000ドル程度ということで、大物ミュージシャンによる南米公演で開催地に選ばれることは殆どありません。そんな中、シャキーラが二度目のパラグアイ公演にやってきたことは今後のエンタメ産業の変化を期待させる出来事であると考えられます。
この週末、実に14年ぶりにアスンシオンを訪れたシャキーラは、観客収容数45000人のLa Nueva Ollaスタジアムでコンサートを開催し、満員の観客を圧倒したようです。
シャキーラについてご存じない方にご説明をしますと、2010年のサッカーワールドカップ南ア大会の主題曲Waka Wakaを歌って大ヒットした歌手で、ラテングラミーも受賞したラテン世界では超大物歌手の一人です。
https://www.youtube.com/watch?v=pRpeEdMmmQ0&list=RDpRpeEdMmmQ0&start_radio=1
今般9年ぶりに製作されたディズニー映画ズートピアでも声優を務めるとともに主題歌を歌っています。
https://www.youtube.com/watch?v=Kw3935PH01E&list=RDKw3935PH01E&start_radio=1
先週はサッカー南米カップの決勝があって宿泊施設がパンク状態だったアスンシオンですが、二週連続のビッグイベントに沸き返っていることは想像に難くありません。
何故想像であるか、というと、今週火曜日にブラジルFoz do Iguacu空港を発って木曜日に成田に到着、現在日本に一時帰国中だからです。
今回は久しぶりに中東のカタール航空を使ってFoz→サンパウロ→ドーハ→成田という経路で帰ってきましたが、外国人排除に懸命の米国経由と異なり、飛行機は新しく機内サービスも充実、乗り継ぎのドーハ空港も設備が素晴らしくて、あまり疲れを感じない旅でした。
帰国早々、幕張メッセで開催されている鉄道技術展というイベントを見てきました。大きな二つの会場は世界中から集まった鉄道関係者でごった返していましたが、主催者発表による参加者は約4万人。シャキーラ公演の一晩分にも満たない数字だったようです。(もちろん、それでも凄い人数ですが。)
このイベントで鉄道に関する様々な技術が出店した約400の会社によって紹介されていましたが、中でも印象的だったのは運転や保守点検の自動化に加え、改札の顔認証など、話題のAI技術を駆使して交通インフラの変革が進んでいるということ。また今まで観光地の乗り物とされていたケーブルカーが、設置や保守のコスト低減につながる都市交通の代替案として提言されていたことなどです。
明治維新前に南米大陸で最初に鉄道が敷かれ、アスンシオン市内も路面電車が重要な市民の足として活躍していたパラグアイですが、自動車業界の成長に伴って廃線に追いやられてきた訳ですが、実はアスンシオン市内での路面電車の復活や長距離案件の再整備に関する計画は進んでいるとも言われています。ただ、今回の展覧会では国内向け商談が中心で、海外に鉄道関連技術を輸出しようとする雰囲気はあまり強くは感じませんでした。
新幹線やリニアなどの技術で世界を圧倒した日本の鉄道業界、また世界市場を見据えて頑張ってほしいと感じた次第です。
以 上