2010年3月に就任したウルグアイのムヒカ大統領は、大統領公邸には住まず農場の自宅から運転手付き高級公用車には乗らないで中古の車を自分で運転して出勤し、給与の大半を貧しい人たちのために寄付して質素な服装でネクタイもせずにどこへでも行く、“世界でいちばん貧しい大統領”といわれている。本書は、そのムヒカ大統領が2012年にリオデジャネイロで開かれた環境が悪化した地球の未来について話し合う国際会議での演説を意訳し、絵をつけた子ども向けの絵本。
全人類が物資的豊かさをもとめ、より多くの物を生産して世界に販売し、競争することを続けていることが、人類がこの先地球の自然と調和しながら生きていくのを妨げている。地球環境の危機ではなく人間の生き方の危機が目の前にある。必要以上に物を手に入れようと働きづめに働くことは命を縮める。飽くことなく物を手に入れ、物を作り続けることが今の社会を動かしているのだが、この動きが止まったらお金の流れも止まり不景気という妖怪が襲うが、実は世界を襲っているのは欲深さという妖怪なのだ。働いて物を多く作り、売り、それを使い捨てにするという悪循環から脱却するためには、今までと違った文化を創る闘いを始めなければならない。「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、限りなく多くを必要とし、もっと欲しがることである」という古人の言葉は、人間にとって何が大切かを教えてくれる。水不足や環境悪化が、今ある危機の原因ではなく、本当の原因は私たちが目指してきた幸せの中身-私たち自身の生き方にある。社会が発展することが、幸福を損なうものであってはならない。人と人が幸せな関係を結ぶこと、子どもを育てること、友人をもつこと、地球上に愛があること-発展はこれらを創ることの味方でなければならない。
初めは小国の大統領のスピーチに関心を示さなかった会場の人たちは、演説が終わった時には大きな喝采が沸き起こった。
(演説のスペイン語テキスト(日本語字幕付き)は http://www.youtube.com/watch?v=Q7aJcf_Lexs で見ることができる。)
〔桜井 敏浩〕
(くさば よしみ編 中川 学絵 汐文社 2014年3月 32頁 1,600円+税)