ブラジル南部のパラナ州都クリチバ市は、1966年に制定した都市構造改革マスタープランにより一貫した都市計画を実現し、土地利用・住宅のゾーニング、歴史景観の保存、放射状と環状道路の整備と公共バス網の整備、緑地・公園の整備などからゴミの分別収集、子供たちへの環境教育の充実など、ブラジルのみならず世界的にも環境都市、都市計画の成功例と高い評価を受けてきた。ここに至るまで、特に72年から市長を92年の間に3期延べ12年市長を務めた都市計画の専門家であるレルネル市長(後にパラナ州知事に)の手腕に依るところが大きいが、その影に日本で農学部造園科の大学院まで出てブラジルに移住した中村 矗(ひとし)という一人の日本人ブラジル帰化技師がいた。
本書はクリチバの都市造りを紹介した著者の『人間都市クリチバ ―環境・交通・福祉・土地利用を統合したまちづくり』(学芸出版社 2004年4月)に続く、同市の公園部長、環境局長、後にレルネル知事に誘われパラナ州環境局長に就いた中村ひとしの物語である。その生い立ちからブラジル渡航、クリチバ市職員として街路樹・公園整備の実績が認められ、自然生態的な動物園や環境市民大学の建設、スラム街でのゴミ収集を促すための市周辺農家からの余剰農産物を買い上げて分別したゴミと交換する緑との交換プログラムなど、様々なアイディアと行動力があったこと、実行することを何よりも優先した、海外で日本人の勤勉さと自然・環境との調和をブラジルで活かせた都市計画に大きな実績を挙げた姿を紹介している。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2014年夏号(No.1407)より〕
(服部 圭郞 未來社 2014年3月 258頁 2,800円+税)