20~21世紀のラテンアメリカでその個性で最も影響力を発揮したのはカストロとチャベスであろう。1992年に陸軍中佐として軍事蜂起し失敗、98年の大統領選挙で当選して以来、ベネズエラはこの救世主となるか、夢想家に過ぎないか「大統領政庁を演劇の舞台に変えてしまった巨人、野次・喝采を浴びせる騒がしい大観衆」の中で彷徨ってきた。
著者は英ガーディアン紙のカラカス通信員を務め、綿密な取材とインタビューで冷静にチャベスの生き方、陳情処理を直接テレビショーで対応して見せる手法、その裏にある熱烈な信奉者、抗議者、離反者たちや女性たちの存在、原油埋蔵量世界一の恵まれた富におぼれ派手な政治・外交に走って経済・財政を着実に衰退させ、国民の生活を混乱させていく状況を、チャベスの性格分析やカストロのさまざまな分野での入れ知恵があったこと、チャベスの13年3月の死の後に腹心マドゥーロが大統領選挙で辛勝したことで、「チャベス無きチャビスモの不吉な始まり」までを丹念に分析している。巻末に訳者の的確な解説が付いて、現代のベネズエラを理解する上で有用な文献の一つ。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2014年夏号(No.1407)より〕
(ローリー・キャロル 伊高浩昭訳 岩波書店 2014年4月 296頁 3,500円+税)