コロンビアで生まれ、英国で教育を受け、20年余日本で日本文化研究を行ってきた著者がスペイン語・英語・日本語に堪能であることを活かしてコロンビア、日本、英国、米国でのフィールドワークと文献調査から纏めた日本人移住史だが、これまでの日本人の移住史が日本人移民とその子孫、日系団体の記録が中心であったのに対し、第三者的視点から移民問題を国策・外交の視点からも検証し、また官製組織(国策移民会社等)の支援を受けた移民だけでなく、自力で定住した移民も対等に取り上げていることは、既存のラテンアメリカへの日本人移住史にない、様々な研究方向を考えさせ斬新な読後感を与える。
必ずしも日本史に詳しくない英語圏読者を考慮した概説も含まれていた英語原書を編者が著者の了解のもと改編し、コロンビアの概況と移民法、日本人移住計画の始まり、当時の日本の海外志向、第二次世界大戦前の移住と戦後移民の通史に加え、1990年の日本の出入国管理法改正による日本へのUターン現象についても述べ、日本移民によってコロンビアが受けた恩恵、日系コロンビア人の新たなアイデンティティにまで言及している。
〔桜井 敏浩〕
(加藤 薫編・訳 野田典子訳 神奈川大学出版会(発行) 丸善出版(発売) 2014年2月 196頁 2,000円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2014年秋号(No.1408)より〕