『マヤ・アンデス・琉球 -環境考古学で読み解く「敗者の文明」』 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『マヤ・アンデス・琉球 -環境考古学で読み解く「敗者の文明」』


 本書は2009年からの共同研究「環太平洋の環境文明史」の成果として、広大な環太平洋に展開したマヤ、アンデス、先史時代の琉球列島を文理融合の手法で比較することによって環境文明史の確立を目指したものである。具体的には福井県水月湖の湖沼堆積物の年縞の分析と炭素14年代データから年代測定の「標準時」を設定し、その成果を用いて復元した環境史の精度の高い軸を基にグアテマラ、アンデス高原のティティカカ湖他、沖縄本島の塩屋湾の各地域で湖沼・内湾のデータを集めて比較することによって環境史を復元し、環境の変化が文明の衰退と結びつくかを探ったものである。
 それらから幾多の環境変化を乗り越えて諸文明が営まれ、マヤ文明については干魃により滅亡したのではないこと、新たな地上絵が発見されているナスカでも、灌漑技術と地上絵を用いた祭祀で気候変動を乗り越えようとしたと思われること、旧石器時代に人類が進出した琉球列島では約1000年前まで自然と融和し採集だけで農耕は行っていなかったことなどが判明した。環境条件の実態を長い期間比較研究する、環境文明史という新学問領域の成果を分かりやすく紹介している。

〔桜井 敏浩〕

 (青山和夫・米延仁志・坂井正人・高宮広土 朝日新聞出版 2014年8月 260頁 1,400円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2014年秋号(No.1408)より〕