『イッペーの花 -小説・ブラジル日本移民の「勝ち組」事件』 紺谷 充彦 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『イッペーの花 -小説・ブラジル日本移民の「勝ち組」事件』 紺谷 充彦


 太平洋戦争直後のブラジルで、ブラジル政府の規制の中で本国との情報を遮断された日系人社会で、敗戦を連合国の謀略だと負けたことを信じたくない人達の「勝ち組」による敗戦を認識した「負け組」の人達へのテロ、「勝ち組」の素朴な移民たちの帰国願望や皇室への畏敬の念につけ込んだ偽宮様への寄進や日本からの迎えの船で帰るための船賃などの口実で金品を巻き上げる詐欺師たちが横行した。
 現代の日本でその日暮らし的に堕情な生活をする主人公に、ブラジル移住から戻った祖母の遺品の手紙の束と2万円が渡され、自分の血筋にも関係がありそうだとブラジルへ渡った主人公は手紙の差出人を探し老人ホームで祖母と親しかった老人に会い、彼が「勝ち組」のテロに荷担し偽宮様に欺され自分の農場を売ってその信奉者の農場運営に努め、許嫁と内心思っていた祖母を奪われた過去を知る。
 実際の当時の日本人同士の凄惨な抗争と詐欺事件を題材に小説化したもので、著者はブラジルに渡りサンパウロで邦字紙の記者を務め帰国した。

〔桜井 敏浩〕

(無明舎出版 2014年7月 230頁 1,700円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2014年秋号(No.1408)より〕