ヴァリグ・ブラジル航空に35年間勤務し、趣味の自転車でスペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラや四国の巡礼などを行ってきた著者が、キューバ東端の都市サンチャゴ・デ・クーバから大航海時代からの歴史のある町トリニダー、キューバ危機の際に侵攻軍と戦闘が行われたヒロン海岸、海岸リゾートのバラデロを経てハバナに帰着するまでの約1,000km、23日間の走行中に見たキューバの人々の姿と交流の記録。
長く物が不足している状態が続いているキューバ人にあえて「何か欲しい物はありますか?」「あなたは幸せですか?」という質問を各地でぶつけてみたが、その回答のトップは「家族と一緒に居られれば幸せ」だった。モノの少なさを不便や貧しさに結びつけて不満や不幸だと思い込んでいる自分たちとは異なる社会を綴っている。ただし、社会主義の基本を保ちつつ、市場経済の自由化として米ドルの保有や食堂・民宿などの個人営業、不動産や車の売買などを認めるようになり、今や主要外貨獲得産業になった観光で増えてきた欧州からの旅行者の買春を瞥見すると、明るく親切で隣人同士で助け合って生きている人々の生活に貧富の格差が忍び寄っていることを示唆している。
〔桜井 敏浩〕
(彩流社 2014年9月 238頁 1,900円+税)