『ジャンガダ』 ジュール・ヴェルヌ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ジャンガダ』  ジュール・ヴェルヌ


「ジャンガダ」とはアマゾン河を下る筏のこと。アマゾン上流ペルーのイキトスにひっそりと暮らす大農場主ホアン・グラールは、娘ミンハがベレン出身の医学生マノエルと結婚することになったことから彼の地で結婚式を挙げさせるため、特産品の販売も兼ねて巨大な筏を建造して、妻や息子ベニート、リナほか大勢の使用人を乗せて河を下る。途中上陸した密林で拾い上げた旅の理容師フラゴッソを同道させる。さらにホアンにつきまとう謎の男トレスを乗せたことから、ホアンは過去にミナスジェライス州のダイヤモンド輸送隊が襲われた事件で極秘の輸送スケジュールを強盗団に漏らした無実の嫌疑をかけれ死刑執行直前に脱走したブラジル人である過去を強請られるが、無実を信じて弁護してくれ今はマナウス判事を頼って秘めた過去と決別するために自首し再審を求める決意をしていたホアンは、これを拒否したことからマナウスの警察に密告され逮捕され、また判事が直前に病死し、頑なな性格のハリケス判事が職務を継いだことを知る。

罪をなすりつけた悔恨から書いた真犯人の覚書は死の直前に同僚だったトレスに託されたのだが、暗号で書かれていたその文書と暗号の解読鍵を自分の欲を達成するために使ったトレスはベニートとの決闘で刺殺され、屍体は文書とともにアマゾン河の底に沈む。ホアンには無実を主張する物的証拠が無くなったため再審は行われず死刑執行命令がリオデジャネイロ裁判所から戻って来るまでにと、ベニート達は潜水具を使って必死にトレスの屍体を捜し、ついに文書の入った鞄を回収するが、肝心の文書の暗号は鍵がないため今はホアンの無実を信じるようになったパズル好きのハリケス判事をもってしても解読出来ないまま、ついに死刑執行命令が届いてしまう。しかし、フラゴッソがかつてのトレスとの出会いの記憶を呼び起こしトレスが属していた上司を訪れ、真犯人の名を聞き出してハリケス判事に伝えたことから暗号解読の鍵が見つかり、刑執行の直前に無実が明らかになり汚名は濯がれた。ジャンガダはイキトスから4か月半の航海の後やっと目的地ベレンの到着、船上でマノエルとミンハ、フラゴッサとリナの結婚式が行われ、筏の木材を含めた物品販売も済ませたホアン一家と2組の新婚カップルは、定期船でイキトスに戻る。

さまざまな事件の遭遇と手に汗を握らせる冒険、さらに暗号解読の展開を、原作の挿絵84点とともに、アマゾン河航行の詳しい描写や密林の内部の様子、ジャンガダの組み立てと航海の模様などを詳細に描写しているが、ヴェルヌ自身は一度もアマゾン地域を訪れたことはなく、文献と現地を知る人たちからの聴取で書き上げたという。

〔桜井 敏浩〕

 

(安東次男訳 文遊社 2013年8月  471頁 2,800円+税)