2014年に開通100周年を迎えたパナマ運河は、現在その拡張工事が進行中であり、来年初め頃には完工するといわれているが、それ以前に南米南端のマゼラン海峡回りの船で行われていた南北アメリカ大陸の東・西海岸の連絡を短縮するためにパナマ地峡横断鉄道が建設され、運河建設のための輸送に貢献し、今なお旅客・観光用に利用されている。実はこの鉄道建設は、1849年のカリフォルニアで起こったゴールドラッシュにより、多くの一攫千金を夢見る人々が米国東部から西部へと殺到したことが契機となっている。1869年に最初の北米大陸横断鉄道が開通し、この鉄道の利用者は激減することになるが、1880年にスエズ運河を実現させたフランス人レセップスがパナマ運河工事を開始、そしてその挫折後に米国がコロンビア領であったパナマ地峡地帯を独立させ1904年から運河工事を開始したことにより、その重要な資材・人員の輸送路として活躍したのである。
本書は、パナマ人弁護士がこの鉄道建設の秘話を長編小説にしたものである。1850年に着工し猖獗の地で5年の歳月をかけておびただしい犠牲者を出して横断鉄道が完成した影に、いち早くビジネスチャンスに着目した米国の実業家、パナマ東西の港へ運航する船の船員、建設工事のために様々な国から来た技師や労働者達、現地で彼らを受け入れた住民がいて、彼らが遭遇した冒険、悲劇、裏切り、友情と恋などを、またカリフォルニアに向かう山師的男達や工事関係者の爆発的な到来により大きく変貌するパナマ市の姿をも描いており、工事の進展と米国とパナマの街の舞台転換、人間模様が交差して一気に読ませる。
〔桜井 敏浩〕
(ファン・ダヴィ・モルガン 中川 晋訳 三冬社 2014年11月 565頁 2,000円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2014/15年冬号(No.1409)より〕