国家の役割を縮小し、経済は市場に委ねるという考え方に基づくネオリベラリズム(新自由主義)をチリが世界で先んじて導入し、その後多くの国で採用された。しかし、90年代末以降はその弊害が厳しく批判されるようになり、その改良型が試行されるポストネオリベラリズムの時代になり、各国で左派が台頭し政権に就いたが、そこには積極的な役割を担う国家の必要性を主張するベネズエラ、エクアドル、ボリビア等の急進派と、マクロ経済はネオリベラリズム路線を継承して経済・社会の安定を維持しつつ社会政策・貧困対策を拡充していこうというブラジル、ウルグアイ、チリなどの穏健派、両派の中間と位置付けられるアルゼンチン、これに対するにネオリベラリズムが支配的なメキシコ、コロンビア等の3つの流れが存在する。
本書はまず急進・穏健左派の分岐点を明らかにし、全体の構成と分析を示し、社会の亀裂克服が鍵となる今後のラテンアメリカ政治を概説した後、各論ではエクアドルの先住民運動、コロンビアの和平プロセス、ペルーの社会紛争と政党の小党分裂、ブラジルにおける政党政治の安定化と非エリート層の台頭、ウルグアイでの周辺国型社民主義、チリにおける政党システムの硬直化による政治不信を取り上げ、課題とこれからの行方を考察している。
〔桜井 敏浩〕
(京都大学学術出版会 2015年3月 185頁 2,800円+税 ISBN978-4-87698-900-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』2015年春号(No.1410)より〕