近代になって観光旅行は「日常・定住」から脱して、定住地を離れ快適に未知の世界を可視化できるようになったことから、「非日常・旅行」の神秘性がなくなってきた。編者はそれを「脱魔術化」したと表現しているが、それでも観光の神秘性は守られている所もあり、新たに発見されたり再創造されるものもあることから、これを「再魔術化」と名付け、アメリカ大陸各地での事例を観光という切り口でのまなざしによって考察しようとしたのが本書である。
2013年の天理大学シンポジウム「創られた観光イメージ-古代文明と開発戦略」での基調報告である、関 雄二国立民族学博物館教授による「南米ペルーにおける文化遺産観光とその問題点」はじめ、地域の文化ツーリズムを指向した、遺跡・海浜ツーリズムとは違った「メキシコにおける観光開発政策の転換と地域創生-「プエブロス・マヒコス(魅力的な町)プログラムの試み」(小林貴徳 愛知県立大)等の発表と質疑、「コスタリカの先住民観光-マレク先住民コミュニティーの農村観光と言語保持」(古川義一 在コスタリカ大使館)、「コンタクトゾーンにおける脱魔術化と観光化-メキシコ・キンタナロー州マヤ地域」(初谷譲次 天理大)、「切り拓かれるべき自然、包み込む「自然」-カンクン・ホテルゾーンの遺跡公園の見せ方を巡って」(杓谷茂樹 中部大学)など、アンデス、マヤ文明の遺跡保全とその観光資源化、メキシコでの民俗的祭りや市街の文化的景観の創出を紹介し、ブラジルでは高原保養地のサンパウロ州のカンポス・ド・ジョルダン市はアルプスのイメージを創った町造りを行い、ミナスジェライス州カッシャンブー市は王制時代からのミネラルウォーターの源泉地などを活かした国内観光開発を、リオデジャネイロ市ではファヴェーラ(貧困者住宅密集地)を地域住民による「リアリティ」創造で観光化した事例も論じられていて、市民・住民コミュニティ・考古学者・行政等の多くの関係者の間での意識の齟齬・相克を、各地で取り組まれている様々な試行で紹介しながら、マスツーリズム批判をも含めて分析している。
〔桜井 敏浩〕
(天理大学出版部 2014 年 12 月 313 頁 2,100 円+税 ISBN978-4-86065-991-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』2015年夏号(No.1411)より〕