1960年4月にブラジルの新首都となったブラジリアは、ブラジル内陸のほぼ中心のセラード地帯に首都を置くという1890年代からの構想が、1956年1月に就任したクビチェック大統領によって実現されたものであった。9月に出た法令で新首都名はブラジリアと定められ、都市構造と主たる要素や道路の配置を含む計画案のコンクールが発表され、26のプランの中からブラジルの建築・都市計画家ルシオ・コスタの提案が採用された。建設地の湖と半島を巧みに取り込んで、政府センター、行政機関、大使館、居住区域等を配し、後世飛行機の形をしていると言われるようになった都市は、首都機能と公園のように生活空間を見事に調和させ、3権機関をはじめとする主要建築のデザインの斬新さ(その多くを建築家オスカー・ニーマイヤーが手がけた)と相まって87年には世界文化遺産に登録されている。
フランスの都市計画・建築家のル・コルビジェが提唱した快適な暮らしを実現するモダニズム都市を、その強い影響を受けたルシオ・コスタが計画したのがブラジリアであるが、決してインターナショナルなモダニズム都市の模倣ではなく、ブラジルという国の首都としてのあるべき姿、ブラジル人のルーツから国民意識を求めて造られ、実現した代表作というべき都市なのである。
本書は、ブラジルの首都の歴史からブラジリアが受け継いだこと、世紀の新首都設計コンクールとルシオ・コスタのプロポーザル、そこへ至るまでのルシオ・コスタのモダニズムからモデルニズモに至る道のり、モデルニズモ都市として誕生したブラジリアのそれぞれの区画や道路配置等の軸、代表的な建築物の設計などの考え方と実情を詳細に解説し、世界遺産指定後のブラジリアの都市としての歴史的現代性の保護にも言及している。多くの計画の構想・プロポーザル審査、建設計画時の設計プラン等の歴史的図版も収録されており、これまでのブラジリア紹介書になかった濃い内容の解説書。
〔桜井 敏浩〕
(鹿島出版会 2014年6月 311頁 3,800円+税 ISBN978-4-306-07306-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』2015年夏号(No.1411)より〕