ラウンドテーブルのご報告(エドアルド・フレイ元チリ共和国大統領) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

ラウンドテーブルのご報告(エドアルド・フレイ元チリ共和国大統領)


当協会は10月6日午後、米州開発銀行のアジア事務所にて、訪日中のエドアルド・フレイ元チリ共和国大統領を迎え米州開発銀行(IDB)アジア事務所会議室にてラウンドテーブルを実施しました。同氏は、1994年から2000年の間、大統領を務められ、チリをラテンアメリカの優等生に導き、現在はアジア太平洋特命大使として活躍されています。パトリシオ・トレス駐日チリ大使が同席され、当協会からは、佐々木会長、細野・伊藤副会長、工藤専務理事、堀坂・桑山常務理事、小川・藤島理事、寺田監事が参加しました。フレイ元大統領による発言要旨を下記いたしますが、ポイントは以下のとおりです(スピーチ原稿は協会ホームページ>イベント>配布資料に掲載)。
①ラテンアメリカは過去10年に亘り民主主義政権の下で安定した経済運営が行われてきた。ポピュリズムの台頭もあるが、成熟した民主主義を目指す必要がある。
②チリは、バチェレ政権の下で各種改革が行われている。OECD水準にレベルアップすることを目指している。
③ラテンアメリカ地域の発展のためにチリは貢献すべく努力している。TPP、太平洋同盟、米国、EU、ラテンアメリカ諸国とのFTA、メルコスルへの協力、などを通じて地域の発展を図りたい。
④日本はここ3年、チリへの投資額でトップの座を堅持している。TPPにおいても日本の果たす役割は重要であり、今後とも関係強化に努めたい。

チリ共和国エドアルド・フレイ(Eduardo Frei Ruiz-Tagle)アジア太平洋特命大使(元大統領)
によるラテンアメリカ協会のラウンドテーブルにおける発言要旨

【冒頭挨拶】
本日はラテンアメリカの現状を簡単にご紹介申し上げる。
全世界的に複雑な問題を抱え、我々は難しい時代に直面している。各国は相互にそれぞれが置かれている状況を理解し合わなければならない。

【ラテンアメリカの置かれている状況】
世界の多くの国々が貧困や紛争などの問題に晒される中、過去10年のラテンアメリカ諸国は比較的、民主主義政権のもと安定した経済運営が行われてきたと言える。政治に関して特徴的なことは、2009年から2016年の間に34もの国家元首の選挙が行われることである。この中で注目すべきは各国における社会勢力の躍進が上げられる。初めての現象ではあるが、長期的に見れば政治情勢は安定していると見ている。ただ、ポピュリズムの台頭や個人崇拝、権威主義の傾向に走らないよう注視する必要がある。各国は成熟した民主主義政治を実践しなければならない。
経済については、中国経済の減速、資源価格の下落、米国の金利引き上げ等、難しい局面に直面している。各国政府はリーダーシップを発揮し、この新しいステージを進んでいく必要がある。インフラを整備し投資を呼び込み、輸出を強化する等、競争力強化が喫緊の課題であろう。目の前の問題に対処するだけでなく、将来的に世界経済におけるラテンアメリカの新しいポジションを確立するためにも大変重要な時期である。

【チリの現状】
バチェレ大統領は、公約の司法、教育、労働、憲法等の各種改革を推進している。チリは他のラテンアメリカ諸国との比較では国際的な各種指標は優れた数字を残していると言えるがOECD加盟国との比較ではまだまだ十分でないものも多い。OECD水準へ到達するためにもこの改革を推進する必要がある。
日本も同様に現在、改革の最中にあると理解している。内政面で緊張が高まる場面もあるようだが、悲観するものではないと考える。

【チリから見たラテンアメリカの展望】
チリは明確にラテンアメリカ地域の各種ブロックと協調して、国際社会に開かれた国であることを志向している。地域の平和維持に貢献していくことが最も大切な役割と考えている。
ラテンアメリカは政治、経済、その他の面でも多種多様な国が集まっており、統合することは難しい。この複雑な環境の中で、チリは多様性を尊重した協調の推進を模索している。
チリは自由貿易協定のパイオニアであり、ギアナ地方を除く全てのラテンアメリカ諸国との間で自由貿易協定を締結している。近年注目されている太平洋同盟については、特に太平洋アジア諸国との関係強化を意識した協定である。関税撤廃のみならず、通関システムや検疫基準等でも域内の統合を図り、自由貿易の促進を図っているほか、加盟国間での学生の留学を増進する施策も実施している。太平洋同盟は貿易の拡大のみならず、投資促進、人材交流等の総合的な地域統合を目指す非常に先進的な協定で、他の地域でも今後このようなモデルが取り入れられるものと考えている。太平洋同盟は他の経済ブロックとの関係強化に積極的に取組んでおり、経済モデルの異なるメルコスルとも協力して、世界経済における競争力強化に努めていきたい。
チリ企業も小売り、エネルギー、金融、通信等の分野で域内投資を積極的に進めている。また、チリはインフラ整備の遅れている地域への投資にも高い関心を寄せている。チリ政府はアンデス山脈を貫き、チリとアルゼンチンを結ぶ3つのトンネル建設計画を発表している。日本企業も調査に参加している。これにより、ブラジル南部、アルゼンチン中北部、パラグアイ、ウルグアイが繋がり、アジア太平洋との距離が縮まるものと期待している。この大動脈の建設により、チリは港湾、空港、鉄道網等のインフラ整備をさらに進める必要がある。

【チリと日本の関係】
日本は直近3年、チリへの投資額で世界1位となっている。投資額のみならず、技術、品質管理等の面でも日本企業の進出がチリ経済に与える恩恵は大きい。鉱物資源、エネルギー発電分野、クリーンエネルギー、その他インフラ事業に加え農業分野への投資も拡大している。貿易量の面でも、チリからの農産物の輸出が伸びてきている。
二重課税防止条約締結に向けた交渉が開始されたことは両国の経済関係の促進にとって非常に有益である。来年中に交渉を完了し2017年には発効となることが望ましい。
チリと日本との関係でもTPP交渉は大変重要なイシューである。TPPはチリを含めた4か国によって提唱されたもので、チリは交渉参加国全てと自由貿易協定を締結している。これ以上、交渉参加国それぞれが自国の利害を押し付けるような交渉を継続することには賛成しかねる。また、バイオ医薬品の知的財産権の取扱いについてはチリの立場を理解いただきたい。この点は先進国と発展途上国の間で理解に大きな差があるものである。

【最後に】
日本とチリは118年の長きに亘り、良好な両国関係の拡大に努めてきた。引き続き、関係強化に努めていきたい。
チリはASEANにおける最大の理解者であることを望んでおり、アジア太平洋地域の発展に貢献したいと考えている。このためにチリは日本と協力して、どのような取組を実行していくべきかを考えなければならない。

以上

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