コロンブスがポルトガル人と逆回りでアジアに到達したと信じた新大陸に到達してから10年後に、イタリアの航海者アメリゴ・ヴェスプッチがそこがアジアの一部ではなく海に囲まれた新世界であることに気付いてから数年後に、ドイツの地理学者ヴァルトゼーミューラーがアメリゴの手紙を偶然見て、彼に敬意を表してそこを「アメリカ」と名付けた世界地図を1507年に出版した。1000部印刷されたこの大地図の唯一現存したものは米合衆国の議会図書館にあるという導入部から始まる。
人類の2000年の世界地図の歴史の中で、思想家の洞察、マルコ・ポーロの前後に東方に赴いた多くの探検家・旅行者の苦難に満ちた探訪の報告、地図製作者の試行、さらにはコロンブスやアメリゴなど多くの航海者・探検家・征服者たち、新領土や貴重な物資貿易の独占を図る帝国施政者の野望を辿り、最終的にはマゼランの世界一周航海で実証された「第四の大陸」と言われた南北アメリカ大陸が認識されるに至る長い地図作成の歴史を、旧大陸の世界観の変遷という観点から明らかにしている。貴重な約100点の古地図図版も付いており、じっくり読むに値する壮大な大部の歴史読み物である。
〔桜井 敏浩〕
(小林力訳 中央公論新社 2015年8月 488頁 3,700円+税 ISBN978-4-12-00478-0 )