サンパウロ新聞に2014年2月から15年2月までの間に連載された、在ブラジル日系人経営者40人、在日日系人10名を取材した論考を集大成したもので、日本語とポルトガル語との両語立てになっている。今後さらにブラジル全土に取材範囲を拡げ、続編を連載し単行本に纏めたいとして、本書はあえて「上巻」としている。
同紙はこれまで日本人移住者の取材を重ねてきたが、日系社会という枠を超えてブラジル社会で、あるいはブラジルから日本に移り住んで活躍している日系人経営者を紹介し、その経営理念などを明らかにすることで、本書はこれまでの日本人ブラジル移住史では手つかずだった切り口からの有用な資料になっている。
ブラジル各地で日本の「正直」「勤勉」「努力」などの日本の伝統的な価値観をもちつつ、再三の経済危機・混乱を耐え抜いた経営者たち、ブラジルから出稼ぎ等で日本に移り住んで徒手空拳から起業した人たちの業種は多岐にわたっているが、ここで取り上げた経営者に共通している魅力は、胆力と体力、先見性と決断力、不動心と情熱、変化への対応力、そしてアミーゴ文化で鍛えあげた経営能力と人間力だという執筆者の指摘は説得力がある。
〔桜井 敏浩〕
(菅野 英明 サンパウロ新聞・Kanno Agency共同制作 サンパウロ新聞社発行 2015年
10月 日本語177頁・ポルトガル語257頁
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〔『ラテンアメリカ時報』2015/16年冬号(No.1413)より〕