著者は東京芸大でデザインを学び、ホンジュラスで造園と木工を指導する海外青年協力隊員として活動、その後中米のカリブ海沿岸に住むGarifuana(セント・ヴィンセント島の先住民と西アフリカから奴隷として連れてこられた黒人との混血)に関心をもったこともあって文化人類学を専攻した経歴をもつ。
本書は楽器学・比較音楽学の視点から、グアテマラの、スペイン人到来前のマヤ世界にはなかったマリンバ(共鳴胴をもつ大型木琴)、大きな弓の弦を叩くカランバ、摩擦太鼓のサカブチェの出生の秘密を探り製作法を尋ね、ホンジュラスのガリフナにとって先祖の霊と繋がる神器であるマラカスを振る儀式や行事、トリニダード・トバゴのドラム缶を打楽器に昇華させたスティールパンについては、その製造法、音階配置と音の違い、さらに日本における受容と普及の経緯、著者の専門分野である製作し演じるという教育活動まで詳しく紹介している。これらに現在著者がいる弘前大学の地元が本場の津軽三味線の歴史、沖縄三線との比較などを加えた、いわば中米カリブの「楽器の文化史」といえるものである。
〔桜井 敏浩〕
(千里文化財団 2015年9月 159頁 2,800円+税 ISBN-978-4-915606-68-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』2015/16年冬号(No.1413)より〕