欧米諸国に遅れて近代化を開始した日本やメキシコのような国々では、帝国主義列強に対抗するための強い国家形成を担う国民の育成のために、公教育制度整備を積極に進めてきた。革命終結後1920年のオブレゴン政権以降、メキシコは西欧モデルの国家づくりを目指してきたが、その一環として先住民とその混血のメスティーソが多く住む農村地域における教育普及が重要政策となった。
本書は教育史研究に社会史の手法を加え、スペイン語による西欧文化吸収のための教育政策をめぐって国家と先住民の葛藤、農村境域政策に重要な役割を果たした国家指導者3名の認識と思想を明らかにし、具体的になされた農村教育政策と農村教師育成の歴史と意味、農村教師による教育の歴史を通じて、教師を介した国家と住民の関係、かけひきの様相を考察している。著者は広島大学で社会学を講じる准教授で、本書は母校一橋大学に提出した学位論文を修正したもの。
〔桜井 敏浩〕
(渓水社 2015年2月 266頁 4,300円+税 ISBN978-4-86327-281-1)
〔『ラテンアメリカ時報』2016年春号(No.1414)より〕