ポルトガル語は本国、ブラジルで使われているほか、モザンビーク等アフリカの5カ国とアジアの東ティモールの8カ国で公用語となっている。そのほか日本での日系ブラジル人やかつての東洋貿易の拠点だったマカオ、前記の国の人びとが故国から移り住んでいる土地でも使われており、「ポルトガル語圏」は世界に広がっている。本書はそれらの国や地域にどのような人たちが暮らし、社会を構成し、歴史・文化があり、どのような問題を抱えているかを、50の切り口から各分野の12人の研究者・飜訳者が解説するものである。
5章構成で、まず「振り返る」では歴史、革命、歌、映画などを、「交わる」では外交からコーヒーを通じての交流、世界で活動するブラジル企業、宗教、外国移住者と言語を、「闘う」では植民地の独立、移民・移住者、アマゾン環境保護の挑戦、先住民やアフロ文化の浸透を、「楽しむ」ではサッカーはじめブラジルの文芸・演劇・音楽・料理を、「夢見る」ではブラジルのテレノベーラ(連続テレビドラマ)から東ティモールの独立やブラジルの資源と開発、教育、多人種社会とファベーラ(貧困者集住地域)の存在、日本でのブラジル人による多文化共生に至るまでを取り上げている。
ポルトガル語圏の世界を知るために実に様々な手法とアプローチで簡潔に解説しており、まさに人種のるつぼを表す際に使われる“サラダボール”の如き魅力を感じさせる比較文化評論の試みである。
〔桜井 敏浩〕
(上智大学出版発行・ぎょうせい発売 2015年12月 428頁 2,000円+税 ISBN978-4-324-10016-5)
〔『ラテンアメリカ時報』2016年春号(No.1414)より〕