アルゼンチンには約20万人のユダヤ人がいるといわれ、その多くはロシア・中欧等からの移住者だが、「ユダヤ人」とはユダヤ法の定義ではユダヤ人の母から生まれユダヤ教に改宗したもの」といっても、アイデンティティやヘブライ語の習得度等多様であり、非ユダヤ教徒との結婚も多くなっている。本書は、著者(東京大学総合文化研究科博士課程在学)がアルゼンチンで2年間ユダヤ人家庭の日常生活に入って現地調査を行った成果を基に、3つの家庭での食生活において安息日や過ぎ越しの祭りの日の食事、英語だと“コーシャ”と呼ばれるユダヤ教の食餌規定に則った食べ物の使用度合いから、何をどのように食べるかという生活様式と宗教実践の考え方をみようとしたものである。
アルゼンチン人といえば、アサード(焼き肉バーベキュー)とマテ茶が欠かせないが、ほとんどのユダヤ人もこれを好み、食べたものが身体の一部になるとの考えからのコーシャをどの程度守るかは、個人が好むと好まざるとにかかわらず、国際情勢、国内政策などの影響を受け、口にするものに自ずから制限があるものの舌と身体に刻みこまれた習性は他の生活様式と比べ残りやすいとの考えから、“食”を通じてみたアルゼンチンのユダヤ人の考察で、今後の一層の研究の深化と他教との比較などが期待される。
〔桜井 敏浩〕
(風響社 2015年10月 65頁 800円+税 ISBN978-4-89489-784-7 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016年春号(No.1414)より〕