バチスタ政権をゲリラ戦により打倒し社会主義キューバ革命を実現したフィデル・カストロと、反共産主義を標榜してスペイン人民戦線政府に反旗を翻して勝利して戦後も1975年に病死するまで独裁者として統治し続けたフランコとは、まったく正反対の政治家に見えるが、実際は二人は親近感と絆があった。それはともに権威主義・家長主義的な傾向の強いスペイン北部のガルシアの出であったこと、ゲリラ戦に通暁していたこと、反米と愛国心の強さ、カストロはカトリックの学校に学び、フランコはカトリックを国教にし、ともにバチカンとの関係を重視し続けた。キューバ革命後に次第に米国との対立が激しくなり、米国がキューバの孤立化を策して各国に圧力をかけたが、スペインは屈することなく二国間関係を維持した。
本書では二人の生い立ちを対比し、スペイン内戦からキューバ革命に至る過程で関係した人物像を描き、バチカンの動きも絡めてスペイン独自の対キューバ外交を、またキューバの側から世界に展開した国際主義、独自外交と米国のキューバ、スペイン政策を辿って見ていく。そして1960年代後半から70年代半ばの間のスペイン外交の変質、フランコ死後の民主化移行と冷戦終結後のキューバとスペインの外交を緻密に検証している。
著者はスペインで歴史学位を取り、外務省で駐スペイン大使館等にも勤務した経験をもつスペイン史・国際関係史専攻の日本大学准教授。
〔桜井 敏浩〕
(筑摩書房(ちくま新書) 2016年3月 250頁 820円+税 ISBN978-4-480-06886-6 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016年秋号(No.1416)より〕