いまやグローバル化の流れは世界各国において不可避である。本書は新興国の一つブラジルにおけるグローバル化の受容過程を、財政での現象と債務累積問題以降の国際金融への対応を解明することで説明を試みることで、ブラジルの政府信用危機と資本移動の考察が、日本における政府債務管理の位相の明確化につながることを期待したものである。
まず1990年代の自由化と緊縮財政路線、IMFのコンディショナリティと後に財政責任法になる財政規律確立の導入から入り、政府債務管理の一環でもある公営企業の民営化が進められ、カルドーゾ政権期の憲法修正、海外からの資金調達の拡大、問題を抱えた売上税改革が連邦・地方政府と経済アクターの利害によって失敗し租税負担率が上昇したことを指摘、社会保障制度の整備と国際収支危機との関係をブラジル国内外の文脈から正当化されうるとみている。これら連邦政府の政策の下での地方政府のグローバル化への対抗軸としての対応を、財政責任法と地方自治体の財政運営の関連で自治体の参加型予算制度への取り組みの効果を分析し、住民参加型の制度形成効果が限定的であることを明らかにしている。これらを振り返り、カルドーゾ政権期において、大規模な国際資本移動等による政府債務危機や通貨危機に翻弄され、国内外の信用回復のために財政運営の持続可能性と通貨価値の安定をめざす財政金融政策が同時に行われたことの意義を検討している。
本書は、ブラジルの政府部門がその経済のグローバル化に対応するために何が必要であったかを、カルドーゾ政権期における財政金融政策に関する制度形成過程を丁寧に考察することによって解明しようとしたものである。著者は財政学を研究する大阪市立大学大学院准教授。
〔桜井 敏浩〕
(ナカニシヤ出版 2016年3月 222頁 3,800円+税 ISBN978-4-7795-1030-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016/17年冬号(No.1417)より〕