ブラジルでは日本人移民は教育熱心と言われていたが、ドイツ・ユダヤ系の人々もそう言われてきた。日本人移民がブラジルにおいて変容・融和していく中で、集団、それを構成する個人が子弟教育によってどのような人間、文化を作ろうとしてきたか? それが教育される側の子供たちはどう受け止めてきたかを、100年の史実に即して戦前期の日系教育機関(学校)での日系教師と移民子弟の実態、教育内容とその成果を具体的に検証している。
19~20世紀のブラジルの日本人をも含む移民導入、その子弟教育から始まり、ブラジルにおける日系移民子弟教育史の概要、日系教育機関の分類とその性格、これまでの日本人移民史では等閑視されてきた都市サンパウロの日系小学校を内陸農村部のそれと比較し、具体的に3人のキリスト教日系子弟教育者を取り上げて彼らの人間像とネットワークの形成を考察、戦前期の子どもの生活世界を紹介し、最後に日系移民子弟教育の成果としての二世の理念、戦後の日系人のプレゼンスの拡大、政治参加、日系政治家・議員の誕生とその境界人的パーソナリティまでを論じている。
ブラジルの日系子弟教育を生徒たちからの視点も交えて考察し、二世が母国の敗戦後の価値観の変化の中から政治家・軍人としてブラジル社会で活躍の場を拡げていった経緯なども興味深い。大阪出身だがサンパウロ大学大学院で学びブラジリア大学や日本の大学で教鞭を取ってきた移民史・教育史の研究者による貴重な学術研究書。
〔桜井 敏浩〕
(みすず書房 2016年10月 632頁 13,000円+税 ISBN978-4-622-07981-1 )
〔『ラテンアメリカ時報』2016/17年冬号(No.1417)より〕