【演題】今日のメキシコ~NAFTA再交渉と国内外の課題
【日時】2017年6月2日
【場所】フォーリン・プレスセンター
【講師】山田 彰 駐メキシコ日本大使
【参加者】約90名
昨年12月末につづき山田彰 駐メキシコ大使をお招きし、メキシコの情勢と今後の見通しについてご講演いただきました。講演の要旨は以下の通りです。
■トランプ米大統領当選後、メキシコは対米交渉体制を強化。クシュナー米大統領上級顧問とのパイプを持つとされるビデガライ氏が2017年1月に外務大臣に就任した。トランプ米大統領の国境の「壁」を巡る発言を契機に墨米首脳会談は中止されたが、両国の閣僚間対話は進展している。
■米大統領のTPP(環太平洋経済連携協定)離脱表明後、2国間協定、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉にシフトしている。4月26日には、トランプ大統領とペニャ・ニエト大統領が電話会談を行い、カナダと共に再交渉を開始することで一致。8月中旬以降の交渉開始にむけ調整を本格化させる。
■対米関係はメキシコにとって最優先事項だが、同国政府は終始一貫して冷静に対応しており、NAFTA再交渉に向けた準備もほぼ完了している。政府は国境の壁建設費用は一切負担しないと明言。米国の強制送還厳格化措置に対しても「容認できない」「国際機関に訴えることも辞さない」と外相が発言した。国民感情は反トランプ一色と言える。トランプ米大統領の「壁」発言はメキシコ国民のプライドを深く傷つけた。ただ、国民は、この問題と米国(国民)との連帯意識とを冷静に区別している。
■米国のNAFTA離脱、国境調整税の導入、郷里送金の禁止はペソ安要因になり、マクロ経済への影響がある。墨中銀は5月18日、ペソの下落防止及びインフレ進行抑止のため、政策金利を引き上げ6.75%とした。
■内政的には、メキシコは大統領選に向け政治の季節入りを迎えている。2018年の大統領選挙では、与党・制度的革命党(PRI)、野党の国民行動党(PAN)、民主革命党(PRD)、そして左派系のPRDから分かれた国家再生運動(Morena)から有力候補が出馬するだろう。
■日墨関係は、2017年は米国関係が不透明なため停滞が予想されるが、メキシコは潜在力があることから中長期的な見通しは明るい。在墨日系企業の撤退もなく、引き続き活発な投資が見込まれる。
■日本企業との連携では、4月26日にメキシコ進出日系企業の意見を政府に申し入れるため、メキシコ日本商工会議所国際交渉戦略委員会が同国経済省幹部と会談を行った。
講演後に、出席者との間で活発な質疑応答があり、大統領選挙で左派系大統領が誕生した場合の対米関係について、NAFTA再交渉失敗のリスク、メキシコ国民の対米感情等、様々な質問にお答えいただいた。(要旨執筆は当協会事務局)
【配布資料】
なお、本講演の説明資料はラテンアメリカ協会のホームページに掲載される(会員限定)。
■「メキシコ・米国関係:トランプ政権発足後の動向」(PDF)
在メキシコ大使館 作成
山田 彰 駐メキシコ日本大使
会場の様子