ブラジルを舞台にした表題作はじめ7作の短編集からなる1986年出版本の再文庫版。早稲田大学で探検部に所属し、アラスカやライターとしてアフリカ南部、米国、ミクロネシア等に赴いていたが、1979年にメキシコのユカタン半島から米国に向かうコースで非合法殺人を請け負った日本人を主人公にした『非合法員』(講談社。小学館文庫 2015年再刊)で、冒険小説家・ハードボイルド作家としてデビューした。また、外浦吾朗名義で『ゴルゴ13』の原作も書いている。1982年から83年にかけてのブラジルへの旅で出会った無国籍状態に近い日本人放浪者を題材にした本書や、東北ブラジルを舞台にした『山猫の夏』(講談社 1984年。小学館文庫 2015年再刊)を、さらにペルーのアンデス高地を舞台にした『神話の果て』(双葉社 1985年。講談社文庫1995年)、ベネズエラ国境に近いコロンビアを舞台にした『伝説なき土地』(講談社 1988年。講談社文庫 2013年)など、いわゆる船戸の南米三部作と言われる長編傑作を残した。その他、ベネズエラでの麻薬取引を描いた『緑の底の底』(中央公論社 1989年。中公文庫 1992年)があるが、その後はアフリカ、アジアや蝦夷の地に題材を移し、『満州国演義』全9巻(新潮社 2007~13年)を最後に2015年に亡くなった。
リオデジャネイロでカーニバルの喧噪の中で暗殺を企てる表題作、ミナスジェライス州の金鉱探し者同士の殺戮を「ガリンペイロ」、東北部バイア州での私刑を「ジャコビーナ街道」、サンパウロの麻薬組織と裏切った売人の制裁を「おタキ」、東北部セアラ州の乾燥地に逃亡者を狩り立てる「バンデイラ」、バイア州のマクンバ(西アフリカから伝わった呪術)の祈祷師の対立を「ふたつの町にて」、アマゾン河に誘拐グループを追う「アマゾン仙次」は、いずれも日本人の根無し草たちを主人公に暴力の応酬を描いているが、ストーリーが面白いばかりではなく、それぞれの現地での綿密な観察によりどれもリアリティがあって、初版から30年も経った文庫本での再版だが十分楽しめる。
〔桜井 敏浩〕
(講談社(文庫) 2016年11月 424頁 780円+税 ISBN978-4-06-293528-9 )