日本でも「絆」という言葉が多く使われるようになったが、格差が大きいブラジル社会において社会階層をまたがる連帯、困窮者への贈与・支援の具体的な方法と実態を、ブラジルの路上商人たちの間での一方的な贈与のあり方を数々の事例を描き出すことで、横の繋がりのみならず縦の繋がりの可能性を問い、異質な者同士の繋がりこそが社会の不平等を是正していくための連帯として必要と説いている。
文化人類学を専攻する若手研究者としてブラジリア大学で富裕層の中で暮らし、その後貧困地域で計3年間調査研究した著者が、金持ちと貧乏人の空間を行き来し、路上商人の生活実践、稼ぎの「汗をかいたカネ」、誰かを助けるためにつかわれた「伸びるカネ」、一方的贈与でのねだり、物乞いなどを多くの事例で紹介し、贈与の義務と危険性、持つ者と持たざる者を白日の下に曝すことによって、「正しい」そして「誤った」贈与などを理論的に整理している。その上で、連帯の作法を「正しさの規範」と「善さの規範」という二つの規範から明らかにし、貧困に対する責任は誰にどこまで課されるのかという責任の領域の考察もしつつ、一方的贈与行為が互いに連携することで社会的つながりの構築になるのではないかと、社会的連帯の可能性を探っている。
〔桜井 敏浩〕
(春風社 2017年2月 354頁 3,700円+税 ISBN978-4-86110-532-6 )
〔『ラテンアメリカ時報』2017年夏号(No.1419)より〕