ジェトロ海外調査部(米州課)中畑 貴雄氏 講演会「ラテンアメリカの自動車産業を巡る事業環境と最近の変化」(2017年7月28日(金)開催) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

ジェトロ海外調査部(米州課)中畑 貴雄氏 講演会「ラテンアメリカの自動車産業を巡る事業環境と最近の変化」(2017年7月28日(金)開催)


【演題】ラテンアメリカの自動車産業を巡る事業環境と最近の変化
【日時】2017年7月28日 15:00~17:00
【場所】フォーリン・プレスセンター
【講師】日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部米州課 中畑 貴雄氏
【コメント】㈱国際経済研究所主席研究員 大石 和明氏

・中畑氏は、①世界の自動車産業におけるラテンアメリカの位置付け、②メキシコの自動車産業、③ブラジルの自動車産業、④アルゼンチンの自動車産業、⑤進出日系企業の業況感と経営課題、⑥米国新政権の通商政策がメキシコの自動車産業に与える影響―の6項目にわたる興味深く、幅広いテーマについて詳細に説明をされた(詳細は添付資料)。

・ラテンアメリカが世界に占める自動車生産台数の割合は6.6%(2016年)で、メキシコとブラジルが主な生産国である。特にメキシコが最近急速に生産台数を伸ばしている(世界第7位、2014年にブラジルを抜いた)。輸出台数ではドイツ、日本に次ぐ第3位。日系企業のOEM生産台数は、メキシコがインド、タイに次ぐ第6位である。

・メキシコの自動車生産は日産が圧倒的(約25%)だが、最近のマツダの躍進振りに注目している。主要メーカーの進出および生産台数の増加に伴い、部品メーカー等関連会社の進出が相次いでいる。自動車生産は、北部とバヒオ地区に集中し、部品企業の所在地は916カ所から2,142カ所に増加した(米Automotive News)ものの、現地調達比率は21%とまだ低い。

・2020年には生産台数が500万台に達するといわれていたが、英HIS Markitの見通しは470万台。

・メキシコの優位性は、①労働コスト、②恵まれた立地(米国に隣接、太平洋・大西洋の両洋に近代的港を有する)による輸送コストの低さにあり、米CARの試算では、米国市場向けは1,200ドル/台、EU市場向けは4,300ドル/台のコスト削減メリットがある。トランプ政権の下でも輸出が生産を牽引し、2017年には2桁の伸びが予想される。

・ブラジルの自動車の生産、販売台数ともに2014年以降、減少しているが、輸出は増加している(米国、コロンビア、チリなど域内輸出が増加)。過去3年の傾向として、米系、独系メーカーが横這いであるのに対して、日系メーカーが健闘している。

・アルゼンチンの国内自動車販売台数は2016年に増加し(政権交代の影響)、輸出も奢侈税の廃止によって増加している(2017年)。

・日系企業はメキシコで急増し、現地系も含め1,111社になったが、ブラジルとアルゼンチンでは増えていない。業況感もメキシコが好調なのに対して、ブラジルとアルゼンチンは低調である。JETRO調査による進出企業が指摘する投資環境のメリットは、メキシコについて「市場規模」、「取引先企業の集積」、「人件費の安さ」が挙げられ、デメリットとしては「不安定な為替」、「治安」の指摘が多い。他方、ブラジルについては、メリットは「市場規模・成長性」、デメリットは「不安定な為替」、「税制・税務手続きの煩雑さ」、「人件費の高騰」、「不安定な政治・社会情勢」などが高い率で挙がっている。

・トランプ政権の通商政策がメキシコの自動車産業に与える影響として、トランプ大統領が課すと言っている「国境税」も国境調整税(BAT)もWTO(世界貿易機関)違反となる。メキシコは多くの国とFTA(自由貿易協定)を締結しているが、米国は“FTA後進国”であり、メキシコには過去の経験がある。原産地規制見直しの可能性があり、8月6日からのNAFTA(北米自由貿易協定)再交渉を見守りたい。

・通商政策以外の影響として、為替レート下落によるインフレ高進の懸念、移民送金規制などがあり、2018年のメキシコ大統領選に影響を与える可能性があり、選挙の行方によっては懸念材料となる。

・引き続きトヨタ自動車で米国・メキシコに駐在の経験をもつ大石氏から以下のコメントがあった。

・メキシコに関しては、NAFTA再交渉が最大の焦点であり、USTR(米通商代表部)の趣意書は自動車業界にとって予断を許さない(原産地規制、トレーシングルール対応等)。NAFTAが存続し続ける限り、メキシコは対米輸出拠点であり続け、メキシコ自動車業界は経済合理性に基づいて行動していくだろう。新たな規制が設けられれば、サプライチェーンの見直し等により柔軟に対応できるが、メキシコでの自動車産業の集積はこれまでのペースで進むとは考えられない。大統領選の結果によっては投資が落ち込む可能性があり、自動車業界は対米依存ではなく、国内市場の拡大を図るべきであろう。

・ブラジルの自動車業界は、現在の厳しい経営環境を如何に乗り切るかが課題であり、今後数年での回復は難しい(ブラジルコストに加え、事業コストが増加している)。

・世界自動車販売に占めるラテンアメリカの割合は560万台/9,400万台の6%であり、30年前の3.5倍にすぎない(中国は50倍、インドは10倍)。ラテンアメリカの潜在力は1,000万台であるが、自動車メーカーは経営資源を成長市場に向けるので、適切な政策による安定的な経済成長が求められる。

・最後にフロアとの間で、自動車金融について、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンの日系メーカーの存在の濃淡の理由等について等の質疑応答があった。

【配布資料】
なお、本講演の説明資料はラテンアメリカ協会のホームページに掲載される(会員限定)

「ラテンアメリカの自動車産業を巡る事業環境と最近の変化」(PDF)

ジェトロ 海外調査部 米州課 中畑貴雄氏 作成


ジェトロ 中畑 貴雄氏

㈱国際経済研究所主席研究員 大石 和明氏

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