自らもブラジル柔術の黒帯を有する写真家が、12回も通っているブラジルで、数多くの格闘家と交流して撮り続けた写真集。“Valetudo”とは、ブラジル語で「何でもあり」を意味する、最小限の禁じ手以外は制限のない素手による格闘技で、現在興業元やルールによって UFCあるいはMMAとも呼ばれ世界的に広まっており、日本でもファンが多い。ブラジルではカポエイラやグレーシー柔術、道衣を着ない上半身裸のLuta Livre、キックボクシングのシュッテボクセ、空手などの流れを汲む格闘家・愛好者が多い。
南部のクリチバではシュッテボクセ(英語ではChute Boxe)のアカデミーを訪れ、リオデジャネイロではルタリブレの朝練に参加し、彼らの試合前後の食生活を知る。最北部のベネズエラ、ガイアナ国境に近いロライマ州の州都である計画都市ボアビスタでは柔術道場を訪れ、乞われて著者も稽古をつける。アマゾン河口の大都市ベレンでは、講道館三羽烏の一人で柔道普及のため米・欧・中南米を回り最後に1915年当地に落ち着き柔術指導にあたったコンデ・コマこと前田光世の墓所を訪れ、その墓守を買って出た空手家の町田嘉三氏に会いその波乱に満ちた半生を聞く。
前作『ブラジリアン バーリトゥード』(2002年 情報センター出版)に続く、2016年のバーリトゥードを巡るブラジルの旅の写真と紀行記の集大成といえる本書に、数多く収録されたブラジルの格闘技に魅せられた若者たちの動きあるカラー写真は、荒い息づかいと汗を感じさせる迫力に満ちている。
〔桜井 敏浩〕
(竹書房 2017年8月 415頁 3,600円+税 ISBN978-4-8019-1152-9 )