【日時】2017年11月10日 15:00~16:30
【場所】日比谷国際ビルB1会議室
【講師】ギート・アールバース氏(コントロール・リスクス・グループ社 サンパウロ・オフィス、シニア・パートナー)
【参加者】約30名
講演では以下の通り、主にブラジルについて、そしてアルゼンチンとペルーの政治・経済見通しについて、コントロール・リスクス社の見解が示された。
■ラテンアメリカの2018年の見通しは、経済では好転の兆し、政治は不透明と言える。
2017年の1%成長に対して、2018年は消費が牽引して年率2.4%への回復が見込まれる。一次産品の市況サイクルがプラスに変わると、政府が投資インセンティブを検討するようになり、金融緩和政策により外資の流入という好循環にも結びつく。政治的リスクは軽減傾向にあるが、依然として「ラテンアメリカ」特有のリスク(汚職、麻薬、治安)は残っており、投資回復にブレーキをかける可能性はある。
2018年の大統領選挙の見通しを概観すると次のとおり。
●コロンビア(3月)は立候補予定者の数が多く先行き不透明。
●メキシコ(7月)は左派のロペス・オブラドール候補が優勢と伝えられ、これまでの石油・ガス分野の民営化が逆行する恐れが懸念される。
●ブラジル(10月)では、汚職事件ラバジャットによる政治不信と経済後退に国民が辟易としている中で、既存政党ではない候補者が出る可能性あり。経済チームの適切な経済運営により経済は好転の兆しがみられ、政治と経済の動きが乖離している。
■ブラジル
●政治・経済
2017年の成長率は年0.6%、2018年は2.2%と予想され、インフレの低下、財政収支 赤字幅の縮小や公的債務の減少など、マクロ面の改善が進むと見ている。
政治面では、テメル大統領が弾劾されれば、暫定大統領を選出して2018年10月の大統領選挙を迎えることになろうが、現状では、テメル大統領は議会の支持をなんとか得ており、来年の選挙まで大統領職に留まると予想される。
ただし国民の間では既存の政党や政治エリートへの不信が根強く、今後、誰が大統領に立候補するか現時点では不明で、既存政党に属さない候補が出現する可能性もある。ルーラ元大統領は依然一番人気だが、訴追されれば法的には立候補できない(Clean State Law)。2位のボウソナロ(右派ポピュリスト)の人気が上昇している。3位のマリーナ・シルバは、環境問題はリベラルだが、政治は保守、経済はオーソドックスと、一貫性がない。シーロ・ゴメスは北部・北東地域に強い左派候補。サンパウロ州知事アウキミン(ブラジル社会民主党、PSDB)はドリア・サンパウロ市長とPSDBの党首の座を争っている。
PSDBもPT(労働者党)も現与党PMDB(ブラジル民主運動党)の支持無しには政権運営が困難であり、現経済政策が継続するだろうと見ている。ドッジ新検事総長により、汚職捜査は今後とも継続して行こう。
●治安
ブラジルの人口10万人当りの殺人件数はベネズエラに次ぐ25.2人。地域差があり、北部・北東部で犯罪率が高い。特に若者が多い。サンパウロ、リオでは景気後退の影響で窃盗や暴行が増加しているが、景気回復により改善するだろう。治安は州の権限で、主要州の中でもリオデジャネイロ州は破産状態で警察官への給与が滞っており、治安は悪化している。
●規制緩和
石油・ガス部門では深海油田プレサル開発が開放され、ローカル・コンテンツが緩和された。11月11日に労働改革法が施行され、硬直的だった労使関係が柔軟になると期待される。インフラ投資、港湾のコンセッション期間の拡大、認可までの期間の短縮化、航空事業の対外開放等が実現する見込みだ。
●投資機会
農業、消費財、石油・ガス、自働車、建設・インフラ
■アルゼンチン
●経済
2018年の経済成長率は年3.8%とマクリ大統領の政策(税制改革、貿易摩擦の解消、補助金削減等)が効を奏している。2016年のホールド・アウト債権者との債務問題解決により、国際金融市場に復帰し、新たに債権発行が可能になった。PPP(公民連携)により、再生可能エネルギーの比率を2025年までに25%とする計画にある。
●政治
マクリ大統領は10月の中間選挙で勝利し、事業環境は好転し、労働改革、税制改革、財政改革、年金改革等、今後様々な改革が行われるとみている。
●汚職
アルゼンチンの汚職はブラジルより酷いとみられ、汚職対策として企業統治、コンプライアンスの強化を図るための法制整備の必要がある。
●治安
他のラテンアメリカ諸国に比べると治安状態は良いが、麻薬問題がある。
■ペルー
●経済
ペルーはラテンアメリカの優等生であり、ここ数年年率3~4%の成長を遂げ、クチンスキー大統領は2018年には5%成長に乗せると言っているが、実際には3.7%程度とみられる。
●政治
クチンスキー大統領の政党は議会で少数派。対立候補であったケイコ・フジモリの野党がマジョリティであるが、政策的にはほぼ同じスタンスといえる。ゲリラ活動は弱まったが、世界有数のコカイン生産国である。鉱山労働者、先住民が社会運動を起す可能性もある。
講演後、限られた時間ではあったが、厳しい財政状況の下での教育問題、政治的にポピュリズムに戻る可能性、等について質疑応答があった。
【配布資料】
なお、本講演の説明資料はラテンアメリカ協会のホームページに掲載される(会員限定)。
■“OUTLOOK FOR 2018”(PDF)
コントロール・リスクス・グループ社 サンパウロ・オフィス、シニア・パートナー
ギート・アールバース氏 作成
ギート・アールバース氏