サンパウロで目抜きのパウリスタ通りで目を引くのが、赤い巨大な柱状構造物にガラスの箱を宙づりにした特異なデザインのサンパウロ美術館(MASP)で、公共建築のみならず家具、舞台や劇場、植栽デザインから都市計画に至るまでを設計した、ブラジルの女流建築家リナ・ボ・バルディの作品である。1941年ローマに生まれ46年に現代美術家でありジャーナリストである夫とともにブラジルへ移住し、後にブラジリアを設計するルシオ・コスタやオスカー・ニーマイヤーなどブラジル建築家学会の有力者と出会い、サンパウロでの美術館の建設に関わり、先進性溢れるデザインの美術館を設計することになる。
自分たちの家として1992年に亡くなるまで居住した傾斜地を活かして眺望に優れた全面ガラスファサードの自邸、その他ドラム缶工場を全面改修した公共スポーツ文化センター、サンパウロ郊外の貧困層が暮らす地域でシンプルな素材とミニマムなデザインの“貧しい建築”で建てたサンタ・マリア・ドス・アンジェス教会、観光地化するのではなく都市と居住者の一体化を考えた東北ブラジルのサルヴァドール旧市街修復プロジェクト、壁際の足場から舞台を見下ろすテアトロ・オフィシナ劇場など、独創的な多岐にわたる作品を発表した。
本書は、それら作品を経緯、写真、図面で丁寧に、全ページ和・英文を並記し説明している。自身建築評論家でもあり、彼女の大フアンというラーゴ駐日ブラジル大使が彼女の功績とブラジル文化への貢献を的確に述べた序文を寄せている。
〔桜井 敏浩〕
(和多利恵津子監修 リナ・ボ・バルディ財団協力 TOTO出版 2017年11月 287頁 4,300円+税 ISBN978-4-88706-369-3 )