沖縄の歴史や伝承を舞台にした物語の作家による中南米を舞台にした壮大な小説。1945年米軍が上陸した沖縄戦の衝撃でマプイ(魂)を失った若い女性 知花煉(ちばな れん)が終戦後ボリビアに移民し、東部平原地帯のサンタクルス市の近くで密林の開拓に挑み、生活の糧を得るために様々な仕事をこなす過程で日系人や先住民等の知己を得、他方で敗戦したドイツを逃れて潜伏する元ナチスの高官と関わりをもつようになるが、時に自身のマプイと肉体が別々に利害を異にしてぶつかり合う行動を取ることから窮地に陥ることもある。オキナワ移住地の開拓や地元民との軋轢、コカの栽培とコカイン密輸、ボリビア旅行中のチェ・ゲバラとの恋、後年のゲバラのボリビアでの革命を目指すゲリラ戦の開始、果ては米国から強奪した核ミサイルのキューバ持ち込みとキューバ危機に至るまで、東西冷戦時代を背景にいささかご都合主義と言えるほど現代史上の有名な人物が入れ替わり立ち替わり登場し、やや荒唐無稽なストリー展開で煉と絡むが、最後はマプイと肉体の乖離も収斂して、一時帰国し米軍に大部分の農地を基地化された沖縄の現状に慟哭するところで終わっている。
著者の言わんとするのは、終わり無き戦争、そのための沖縄の基地の存続の糾弾にあるように思えるが、「第十一章私が愛した革命家」での煉とゲバラとのやり取りの中に、彼がボリビアで革命を起こそうとして失敗したのが、ゲバラの革命への理念とボリビアの農民たちがまったく噛み合わなかったことに敗因があるとの指摘は的を得ていよう。
〔桜井 敏浩〕
(角川書店 2017年8月 630頁 1,900円+税 ISBN978-4-04-103465-1 )