【日時】2018年1月30日(火)15:00~16:45
【場所】フォーリン・プレスセンター会議室
【講師】ゴンサロ・ミュレル(チリ)デサロージョ大学教授
【参加者】約50名
チリ・デサロージョ大学ゴンサロ・ミュレル(Gonzalo Müller Osorio)教授は第一期ピニェラ政権の下で内閣官房首席顧問を務めたほか、政治アナリストとしてマスコミに頻繁に登場するなど、チリの政情に精通された専門家のお一人です。本講演では、チリの政治、経済、社会について、ピノチェト政権以後の過去35年間の変化から将来見通しまで、世界や他のラテンアメリカ諸国の傾向と絡めて具体的にお話しいただいた。講演後の質疑応答でも、多くの方から様々な質問が出されたが、教授は予定時間をオーバーして全ての質問に丁寧に答えられた。講演の内容を以下に要約する。
1.人口動態
35年前には、チリ政府は貧困国から脱することを第一目標としていた。今では平均寿命が延び、乳児死亡率は減少した。人口構成は高齢化に向かっているが、教育水準の向上により、大学進学率が上昇し収入は増加し、貧困は減少した。
2.経済の変化
第三次産業革命により世界的に一人当りGDPが飛躍的に増加したが、ラテンアメリカでは「制度」的要因から国によって発展の様相を異にした。その中でチリは一人当りのGDPが拡大し続け、貧困から脱して、中進国に位置づけられるようになった。
しかし、チリも「中進国の罠」に囚われ、貧困が全般に減少する一方で、不平等の度合いは強まっている。
3.政治的側面
世界の歴史上、民主主義はむしろ例外的な存在であったが、ラテンアメリカでは民主国家が増加し、多くの人々は民主主義に「満足」と答えている。しかし、チリでは他の国に比べて意外と民主主義に対する信頼度が低い(12.6%)。政治体制としての大統領制では、国により大統領の権限が異なるが、チリでは予算権限が強い。
4.中間層の台頭
チリの「中間層」は統計実態と本人たちの意識の間に差がある。統計上は所得階層の25~30%が中間層とされているが、国民の80%が自分たちを中間層と思っている。チリの中間層は要求が多い(平等への要求、個人主義、先行きを重視、等)。中間層は政治的アイデンティティを持たないので、選挙の度に態度が揺れる
5.社会的価値観
この3~5年の間に「政治制度」は国民の信頼を失った。それは、政治家(右も左も)が過去30年の国民の意識変化を理解してこなかったためである。教育、女性、保健等の分野で機会均等の要望が高まっている。
6.政治の見通し
犯罪、教育改革、保健(福祉)、年金、(残る)貧困対策、等の課題に対して国民は大幅な変革・改革を求めている。新たな課題として移民や中絶問題も持ち上がっている。バチェレ政権は35年の改革を4年という短期でやろうとし、大学の無償化など様々な公約をしたが、財源不足から公約が実施されなかったため、支持率を失う結果となった。国民は中道左派と中道右派に分れたが、決戦投票で中間層が中道右派に流れ、ピニェラが大統領に当選した。ピニェレ現大統領は「成長と雇用」を公約に掲げ、経済閣僚に強力な人材を登用した(Felipe Larrain財務大臣やJose Ramon Valente経済大臣)。また、社会開発省を設け、Alfredo Moreno元外務大臣を起用した。一方、中道左派は分裂し、新たな左寄りの党が出来た。
【配布資料】
なお、本講演の説明資料はラテンアメリカ協会のホームページに掲載される(会員限定)。
■“Chilean Social and Political Outlook”(PDF)
Gonzalo Müller Osorio 教授 作成
チリ・デサロージョ大学ゴンサロ・ミュレル(Gonzalo Müller Osorio)教授
会場の様子