高等教育の場で、日本と世界の諸地域の基礎的学習素材として編集されたシリーズの1冊で、メキシコから南アメリカのコロンビアとパナマとの国境であるダリエン地峡までの地域とカリブ海を中心に展開する島嶼部の地域を「中部アメリカ」と名付け対象としている。
地域の自然環境と地震や暴風雨等の災害、それによる社会的脆弱性、スペインによる征服から現代に至るまでの歴史、民族と文化の混淆、言語、この地域でのコーヒーやバナナ等のプランテーションの企業的農業と零細農、農地改革と農業再編、有機農業やフェアトレードの試み、急速な都市化の過程、都市内の貧富の階層住み分けによる分断化、自国外への労働移動と海外からの郷里送金という人と資本移動の問題、所得分配の不平等や地域差からくる貧困のデータ分析から、貧困と社会格差、犯罪の多発の実状、それらの緩和への取り組み、列強・大国に翻弄される国々の地政学分析、観光資源に恵まれ、旅客機や客船によって増大し大衆化してきたこの地域の観光の新しい動きなどを9章でコラムとともに紹介している。最終章で、世界の中の中部アメリカの国際・域内関係と日本との関係を述べ、日本の中の中部アメリカを県・市の例で紹介したコラムで結んでいる。
巻末に各章毎にさらなる学習のための参考文献リストも付けてあり、グローバル化と情報化が進行しつつある中で、意思決定を行う基盤として正確な地域認識・理解を深める必要があるというシリーズの編集意図が感じられる地域解説書。
〔桜井 敏浩〕
(朝倉書店 2018年3月 160頁 3,400円+税 ISBN978-4-254-16930-0)
〔『ラテンアメリカ時報』2018年春号(No.1422)より〕